<研究ノート>ゲノム情報から見た祖先とは誰か?

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タイトル別名
  • <Research Notes>Who are the ancestors as seen from genomic information?
  • ゲノム情報から見た祖先とは誰か?
  • ゲノム ジョウホウ カラ ミタ ソセン トワ ダレ カ?

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説明

DNAをもちいたルーツ探しは, 最近DTCによりビジネス化されている。しかし, 遺伝情報からみた「祖先」の科学的な意味は一般に認知されているとは言いがたいし, DNA検査会社からの説明も必ずしも十分とは言えない。本稿はこうした現状を鑑み, その説明を試みるものである。理論上, 私達のn世代前には2n人の「祖先」が存在する。実際には, あらゆる集団において広い意味での近親婚が行われているので, 2n人中の何人かが同一人物であり, 実際の「祖先」の人数は理論上の数よりずっと少ない。しかし, この過去に生きていた2n人が, 単一の祖先集団に属していた保証はなく, いつの時代の祖先を考えるかによって異なるが, 仮に100世代前(約3千年前)であれば, 特定の個人の祖先は理論上2100人存在したことになり, この天文学的人数である2100人の祖先が同一祖先集団に属していたとは考えにくい。日本のDTC企業の多くがミトコンドリアDNA(mtDNA)からみた祖先探しのサービスを提供しているが, mtDNAは母方の系統のみで継承されるので, このサービスで示される「祖先」とは, 2n人中のたった1人であり, 残りの(2n−1)人は無視されることになる。米国の同様のサービスでは, 核DNAにもとづくゲノム解析をおこない, 個人の「祖先」を百分率で提示する場合が多いが, 米国のDTCで言う「祖先」とは数百年前の「祖先」を意味し, 日本のDTCで言う「祖先」が数万年前の祖先を意味することと対比すると, そこで語られる「祖先」とは文脈上大きく異なる。このように, 遺伝学的背景を十分踏まえた上でルーツ探しを理解することが重要であるばかりでなく, 祖先を語る文脈はDTCを利用する現代の消費者に依存し, それはその消費者が共有する文化に依存している。こうした考察を踏まえ, DTCのあり方を, 自然科学の立場からだけでなく, 人文科学の立場からもより深く追求することが重要である。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 114 195-204, 2019-12-25

    京都大學人文科學研究所

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