野球用ヘルメット着用の有無が打者の頭部動作と打点位置に与える影響

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抄録

【背景】野球の打撃に関する研究では、水平方向に移動する物体を視覚追従する研究はあるが、 リリース直後に一瞬上方に抜けるような軌道を描く、「カーブ」に代表されるような球種に対 する研究はほとんどない。また、視野制限をもたらす可能性がある野球用ツバ付きヘルメット (以下ヘルメット)の着用は、上方に抜けるような軌道を描く球種を視覚追従する際には、そ れに伴い頭部の上方への動きが大きくなり、バッティングに影響することが予測される。実践 状況下では、このような球種に対する対応力も不可欠であるが、研究はほとんどない。 【目的】このため本研究は、ヘルメットの着用の有無が、頭部動作と打撃精度に及ぼす影響に ついて調べた。 【方法】野球経験のある大学生14名にヘルメット着用下と非着用下において、カーブなどの 上下方向へ変化する球種を想定し、3段階の高さ(Normal-level:N-level、Upper-level:Ulevel 、Beyond-level:B-level)に設定したVisual Target(VT)をTake-back 局面において視 認させてから、ティースタンド上のボールを打たせた。打撃精度は、バットに貼付した打点記 録紙上に打球痕を記録し、打撃面上の基準位置からの距離を、長軸(LA)と短軸(SA)方向に ついて求めた。 【結果】ヘルメット着用下では、打者のTake-back局面における初期頭部上方変位が非着用下 よりも増幅した。LA上の打点位置はヘルメット着用下においてバット面上のグリップ方向 に移動した。SA上の打点位置は、ヘルメット着用下では視認するVTが高ければ有意に低く (N-level=-4.27±14.65mm、U-level=-12.69±14.35mm、B-level=-16.83±16.61mm、N vs U: p<0.001、N vs B:p<0.001)、さらにB-levelのVTを視認する状況下では、ヘルメット着用下に おいて非着用下よりも有意に低かった(With Helmet=-16.83±16.61mm、Without Helmet=-7.1 ±16.34mm:p<0.01)。 【考察】野球用ヘルメット着用の有無は、初期頭部上方変位を増幅し、打撃精度に影響を与え ることが示唆された。 【現場への提言】ヘルメット着用下と非着用下の状況間で打点位置に有意差が存在したことは、 打撃練習におけるヘルメット着用の必要性を強く支持するものである。現場では、ヘルメット を着用せずにスイングやトスバッティングなどの打撃練習を行う例が多く見られる。特に小学 生から大学生までのアマチュア野球におけるこの傾向は大きな問題と考えられる。改善を狙う 目的に特化した状況下で行うことが必要であるという、「トレーニングの特異性の原則」を照 らし合わせても、また、上方に抜けるような軌道を描く「カーブ」に代表される球種への効果 的な対応のためにも、打撃練習の基本から実践にいたるまで、ヘルメット着用が必要と考えら れる。投手のレベルが高まる現代野球において、本研究は実践現場の指導指針として有益な情 報になり得る。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573242461641344
  • NII論文ID
    130008164630
  • DOI
    10.32171/cpjssct.2019.0_48
  • ISSN
    24343323
    24337773
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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