イギリス及びスウェーデンの予算過程における租税支出と会計検査院 ―付加価値税の租税支出を意識して―

  • 関口 智
    立教大学経済学部・大学院経済学研究科

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  • イギリス オヨビ スウェーデン ノ ヨサン カテイ ニ オケル ソゼイ シシュツ ト カイケイ ケンサイン : フカ カチゼイ ノ ソゼイ シシュツ オ イシキ シテ

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抄録

<p> 本稿は,予算過程と租税支出の関連について,イギリスとスウェーデンの中央政府における予算過程を取り上げ,特にこれまでの論考では必ずしも正面から取り上げることのなかった付加価値税の租税支出にも着目している。</p><p> 両国に共通するのは,財政規律を意識しつつ,予算サイクルの中で歳出統制を行い,財政規律に関連させながら租税支出統制を行っている点にある。歳出面での統制を強めると,その統制を回避する手段として,租税支出を多用する恐れがあるからである。 とは言え,両国の租税支出統制の方向性は,若干異なっている。イギリス政府は,租税支出報告は減税額を明示する手段であるとの志向が強く,歳出とは別の枠組みで統制するとの立場を取っている。これに対してスウェーデン政府は,租税支出報告は国民に受益を示す手段であるとの志向が強く,歳出と一体的に統制するとの立場を取っている。</p><p> 注目すべきは,イギリスやスウェーデンでは,予算サイクルの中での政府からの租税支出報告が,付加価値税を中心とする消費課税についても包括的に行われ,時には会計検査院による検査等も通じて,可能な限り議会に対し情報提供する試みや議論がなされている点にある。その背景には,所得税に加えて付加価値税をも基幹税とする両国において,付加価値税が軽減税率等によって税収調達力を低めてしまっていること,その一方で国民に対して便益があること等を説明することが意識されていることがある。</p><p> 日本における従来の租税支出研究は,アメリカ連邦政府での租税支出概念を意識する形でなされてきたこともあり,所得課税に重点を置いて行われてきた。このことは,付加価値税を中心にした消費課税の租税支出という視点が,必ずしも重視されてこなかったことを意味している。2019年10月に予定される付加価値税の軽減税率導入は,日本での租税支出統制による対応策を改めて考える,絶好の機会でもある。</p>

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