和牛子牛生産における集団的学習と戦略的連携

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タイトル別名
  • Collective learning and strategic cooperative in beef-producing region, Tochigi Prefecture
  • 「とちぎの和牛を考える会」を中心に

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 2021年現在、栃木県では年間13,600頭の和牛子牛(全国10位,畜産統計)が生産されている。その一定数は乳肉複合経営を営む酪農家で出生したものである。和牛子牛専門の家畜市場である矢板家畜市場では、2021年の上場子牛のうち、受精卵移植により出生した子牛(以下、ET子牛)は27.3%を占める。県内産の和牛子牛に占めるET子牛割合は増加傾向にあり、大規模法人経営体における増頭が影響している。また、ET産子が多いことは、子牛産地規模の維持にも寄与し、購買者による矢板家畜市場の安定的な評価にもつながっている。ET子牛生産に関する地理学分野の研究は乏しく、大呂(2019)がその先駆である。</p><p> 本研究では、矢板家畜市場の上場牛データおよび子牛登記地区別実績の経年データをもとに、ET子牛生産の地域性と血統構成を把握するとともに、多様な肉用牛経営が知識獲得および情報交換のために集う「とちぎの和牛を考える会」(以下、「考える会」)を取り上げ、役員へのインタビューをもとに、同会が受精卵移植(以下、ET)技術を始めとする和牛改良のための新技術の集団的学習に果たした役割を明らかにする。</p><p>2.ETによる和牛子牛生産の地域的展開</p><p> 栃木県においてETの肉用牛経営への導入は、1987年頃より開始された。牛肉輸入自由化を前に1990年よりホルスタイン雄子牛の価格が下落したため、ダメージを受けた酪農経営の収益性向上のために、獣医師の指導のもと酪農経営と和牛繁殖経営との間で「借り腹」の協約が結ばれた。「借り腹」は、和牛母牛への人工授精後に採卵した受精卵を、酪農経営の未経産牛に移植し、生後1週間の和牛子牛を一定価格で和牛繁殖経営が引き取るものである。この協約関係は、塩谷郡と那須郡で広がりを見せ、子牛登記の登録頭数に占めるET子牛の割合は、両郡において1990年代後半より県平均を上回る20~30%で推移した。</p><p> 1990年代半ばの矢板家畜市場では、和牛からの採卵とホルスタイン未経産牛へのETを行う育成牧場を北海道に共同開設した県北部の酪農家グループが、ET子牛の上場頭数で際立った存在であった(宮路,1999)。</p><p>3.「とちぎの和牛を考える会」における集団的学習</p><p> 「考える会」は、1988年に第1回が開催され、2019年まで32回を数える(2020年、2021年はCOVID-19感染拡大のため中止)。年1回の研修会および交流会には、県全域から規模もさまざまな和牛経営(繁殖ないし繁殖・肥育一貫経営)、酪農経営、行政・農協・試験場の職員、獣医師、農業高校、農業大学校の生徒・学生など、300~500人が参加する。農協の管轄地域を超えて、個々の経営改善、ひいては栃木の和牛改良を推進するために、知識・技術を習得しようとする集団的学習の場は、県内におけるETの普及とET子牛の品質向上を促した。研修会では、県酪農試験場、県家畜保健衛生所、家畜改良事業団種雄牛センター、製薬メーカー、飼料メーカーなどの講師により、和牛改良や飼養衛生管理に関する講演が行われるほか、矢板家畜市場の県内外の購買者(肥育経営)を招いたパネルディスカッションも複数回開催されている。</p><p>  「考える会」は、2019年9月にホームページを開設し、矢板家畜市場の成績、種雄牛や医薬品の情報を定期的に更新するとともに、ホームページ管理者自らが行う農家インタビューの内容を掲載している。これらの情報発信により、年1回の研修会を待たず、飼養管理に関する知識の更新が図られるほか、他地域の優良経営の実践を知ることができる。かかる取り組みは、COVID-19影響下において「考える会」への参加意欲を持続させるのに大きな効力を発揮している。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573242722238592
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_210
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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