「リスケーリング」は日本の地方自治制度に当てはまるか?

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タイトル別名
  • Can “Rescaling” Apply to Japanese Local Institutions?
  • Review of a Concept of Geographical Scale
  • 地理的スケール概念の再検討

抄録

<p>1.研究の背景</p><p> 日本の人文地理学では,地方自治制度の再編を空間的観点から論じることのできる概念として,「リスケーリング(rescaling)」が注目されている.しかし,実際にこれを鍵概念として活用し成果を上げた地理学的研究は管見の限り現れていない.隣接分野では,地域社会学から丸山(2015)が出ているものの,さらなる研究が展開される様子はない.一方,リスケーリングの語幹である「スケール」は,山﨑(2005)により新たな空間概念(「地理的スケール」とも呼ばれる)として日本に紹介されて以来,実証研究への応用が重ねられている.丸山(2015)は,リスケーリング概念を,山﨑(2005)のスケール概念の応用と位置づけているが,研究成果における両者の対照性は,この理解に再考を迫るものとなっている.</p><p> 以上を踏まえて本稿では,日本の地理学においてリスケーリング研究が進まない理由の解明を目的に,地理的スケールならびにリスケーリングの概念の再検討を行う.</p><p>2.スケールの存在論をめぐる英語圏での論争</p><p> 地理的スケールおよびリスケーリングの概念が生まれた英語圏の地理学では,スケールについての相反する見方が対立している.一方は,スケールが実在するとみる立場であり,他方は,スケールは認識の枠組みに過ぎず,実体がないとする立場である.言い換えると,前者はスケールを,個々人の思惑から独立して存在する社会的構造とみるのに対し,後者は,個人の主観から政治的行為を通じて生じるもの,すなわちエージェンシーの発露とみる.</p><p> 丸山(2015)の依拠するリスケーリング論は前者に相当し,そこでは,global, national, localといったスケールが,それぞれ異なる機能を有することが前提となっている.一方,山﨑(2005)の議論では,スケールは政治を通じて絶えず作られ,問い直され,更新されるものであり,そこでは特定のスケールについての政治的主張を展開する「主体」,すなわちエージェンシーが強調される.この考え方に基づけば,スケールが再編されるのは自明であり,わざわざ“re~ing”と表現するのは不自然となる.</p><p>3.日本の中央地方関係と「リスケーリング」</p><p> 行政学では,日本と英米の中央地方関係の相違を,融合-分離の対立軸で描いている.「分離」型の英国・米国では,国と自治体の扱う事務事業は異なっており,互いに干渉しないのが原則である.一方,「融合」型の日本では,同一の事務事業について,国と自治体が相互に関係している.</p><p> これを前段の議論と重ねると,スケール間の機能の違いを前提とするリスケーリングの考え方は,「分離」型という英国・米国の現状に根ざしたものであり,「融合」型の日本とは相性が悪い.一方,スケールが生み出される政治過程をエージェンシーに着目して分析する山﨑(2005)の方法論は,「融合」型の日本における,権限と責任をめぐる国と自治体の相互関係を分析するのに適しているように思われる.まとめると,リスケーリング論の射程は,スケール的構造を与件とみなせるケースに限られており,日本の地方自治制度の文脈において一般的とはいえないだろう.</p><p>参考文献</p><p>丸山真央 2015.『「平成の大合併」の政治社会学―国家のリスケーリングと地域社会』御茶の水書房.</p><p>山﨑孝史 2005.グローバルあるいはローカルなスケールと政治.水内俊雄編『空間の政治地理』24-44.朝倉書店.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573242737924992
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_26
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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