飛騨山脈北部において氷河・多年性雪渓が形成される地形の特徴

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  • Characteristics of topography where glaciers and perennial snow patches can exist in the northern Japanese Alps

抄録

<p> </p><p> 1. はじめに  </p><p> 日本海側の山地では,冬季の北西季節風が対馬暖流の水蒸気を取り込むことで大量の降雪がもたらされる.標高3000mほどの飛彈山脈北部では,多くの多年性雪渓が分布する(朝日,2013). 2012年以降,飛彈山脈北部の七つの多年性雪渓は,流動現象を持つ氷河であることが確認されている(有江ら,2019など). </p><p> 氷河と多年性雪渓の形成には,年間の積雪量が融雪量を上回る環境が必要である.現在の飛彈山脈の気候環境では,稜線付近でさえも降雪量が融解量を下回るためほとんどの積雪が越年しない.Arie et al. (in press) は,飛騨山脈の五つの氷河の年間質量収支,積雪深,融雪深を写真測量によって算出した.その結果,氷河の積雪深は,飛騨山脈の降雪深(立山室堂平の積雪深)の2倍以上であり,温暖な環境で氷河が維持されるには雪崩や吹きだまりの地形効果が重要であることを示した.多年性雪渓も同様であり,その分布は,雪崩や吹きだまりによる雪の再分配がある場所に限定されることが指摘されている(樋口,1968). </p><p> 朝日(2013)によると,飛彈山脈の多年性雪渓の8割以上は主稜線の東側に分布する.これは北西季節風により風下側の東斜面に雪が吹きだまることによる雪の再配分の影響が大きいことを示す.雪崩の寄与の評価方法の一つとして,Hughes (2008)は,氷河の総面積に対する雪崩放出面積(氷河の集水域で傾斜が30°以上の斜面面積)の比率である雪崩率を定義し,雪崩率が高い場合,その氷河に対する雪崩の寄与が大きいことを示した.しかしながら,この指標は,氷河や雪渓のない場所の雪崩率を求めることができないため,谷底地形への雪崩の寄与の評価という点でまだ課題がある.そこで本研究では,飛彈山脈北部の剱・立山連峰周辺の傾斜30°以下,かつ高度1500m以上谷底地形を対象に,雪崩率,斜面方位,高度を比較し,飛彈山脈北部において氷河・多年性雪渓が形成される地形の特徴を調べた.</p><p></p><p>2. 方法  </p><p> Hughes (2008)の雪崩率算出では,氷河面積を使用するため,氷河や多年性雪渓のない谷底の雪崩率を求めることができない.そこで本研究では,谷底の傾斜30°以下,かつ高度1500m以上の地形を雪崩堆積域と定義し,雪崩堆積面積と雪崩放出面積(雪崩堆積域の集水域で傾斜が30°以上の斜面面積)の比から,雪崩率を算出した.谷底地形の雪崩堆積面積,雪崩放出面積,斜面方位,高度は,国土地理院の数値地図5mメッシュを使用した.</p><p></p><p>3. 結果  </p><p> 図1は,剱・立山連峰周辺の雪崩堆積域の雪崩率,高度,斜面方位である.低い高度と高い高度の氷河・雪渓のある谷底地形を比べたところ,低い高度のほうが雪崩率は大きかった.また,同高度の雪のない谷底地形と氷河・雪渓のある谷底地形を比べたところ,氷河・雪渓のある谷底地形のほうが雪崩率は大きかった.西側斜面と東側斜面の氷河・雪渓のある谷底地形で比較したところ,吹きだまり涵養のある東側斜面より,西側斜面の氷河・雪渓のある谷底地形のほうが雪崩率は大きかった.  </p><p></p><p>4. 考 </p><p> 氷河・雪渓のある谷底地形の雪崩率は西側斜面のほうが大きいことから,吹きだまり涵養のない西側斜面で氷河・雪渓が形成されるには,多くの雪崩涵養が必要であることが考えられる. </p><p> また,1)低い高度の氷河・雪渓のある谷底地形のほうが,高い高度より雪崩率は大きいこと,2)同高度の場合,氷河・雪渓のある谷底地形の雪崩率は雪のない谷底地形より大きいことから,図1の雪崩率,斜面方位,高度の関係は,氷河・雪渓の分布を決める重要な地形要素であることが示唆された. </p><p></p><p>引用文献 </p><p>Arie, K., Narama, C., Yamamoto, R., Fukui, K., and Iida, H. in press. Characteristics of mountain glaciers in the northern Japanese Alps, The Cryosphere. </p><p>有江賢志朗・奈良間千之・福井幸太郎・飯田肇・高橋一徳2019.飛彈山脈北部,唐松沢雪渓の氷厚と流動.雪氷,81,283-295. </p><p>朝日克彦2016.空中写真判読による中部山岳の越年性雪渓の分布と動態.国土地理協会学術研究助成報告集 第2集,国土地理協会公益事業担当編,国土地理協会公益事業担当,239pp. </p><p>樋口敬二 1968.雪渓の消長と夏期気温の変動.気象研究ノート,98,24-28. </p><p>Hughes, P. D.2008. Response of a Montenegro glacier to extreme summer heatwaves in 2003 and 2007, Geogr. Ann. A., 90, 259–267.</p>

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  • CRID
    1390573242737933312
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_99
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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