日本における自然災害に対する公衆衛生実践

  • 武村 真治
    国立保健医療科学院政策技術評価研究部 厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)研究事業推進官

書誌事項

タイトル別名
  • Public health practices to address natural disasters in Japan

この論文をさがす

抄録

<p>本稿では,日本における自然災害に関連した公衆衛生実践に関連する法律や関連組織を概説するとともに,自然災害時の公衆衛生活動の改善への国立保健医療科学院の貢献について論述する.</p><p>第二次世界大戦後まもなく,災害発生後の急性期における緊急救助を規定する「災害救助法」が,1961年に「災害対策基本法」が制定され,公衆衛生実践を含む災害管理システムが構築された.災害対策基本法に基づいて,国や地方自治体,国立病院機構,地域医療機能推進機構,日本赤十字社,日本医師会などの関係機関は防災計画を策定している.その中でも,中央防災会議が策定する「防災基本計画」は国全体の包括的な計画で,他の防災計画の基礎となっている.防災基本計画は,阪神・淡路大震災や東日本大震災,COVID-19の流行など,大規模な自然災害等の経験を踏まえて常に改訂されている.また医療提供体制の確保に関する「医療法」,保健所やその健康危機管理機能に関する「地域保健法」も自然災害に対する公衆衛生実践に関係している.</p><p>自然災害発生時には,都道府県や市町村などの地方自治体は住民の生命と健康を守る責任がある.被災した都道府県は速やかに国や他の地方自治体に支援を要請することができるが,必要に応じて,要請の有無に関わらず国が支援を行うことができる.被災した地方自治体の公衆衛生実践を効果的に支援する組織として,災害派遣医療チーム(DMAT),災害派遣精神医療チーム(DPAT),災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)が設立されている.DMATは災害発生直後すぐに活動を開始できる機動力を持ち,災害現場での医療活動,被災地の病院の医療活動の支援,広域医療搬送,ロジスティックスなどを実施する.DPATは精神科医療の提供,精神保健活動の支援,被災した医療機関への支援,被災地で活動する支援者への支援などを実施する.DHEATは被災した都道府県における健康危機管理の指揮調整機能を支援し,健康危機管理組織の立上げと指揮調整体制の構築,保健医療活動チームの受援調整などを実施する.</p><p>国立保健医療科学院は,教育と研究の両面から,自然災害に対する公衆衛生活動の向上に貢献している.教育に関しては,保健所長の養成を目的とした 3 か月間の専門課程(保健福祉行政管理分野)や,2日間の健康危機管理研修(DHEAT養成研修(高度編(指導者向け)))を実施し,保健所職員やDHEAT隊員の知識や技能の向上に貢献している.また研究に関しては,研究機関として関連する研究を実施するほか,厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)の研究費配分機関として研究課題を支援している.これらの研究成果は,保健所,DHEAT,DMAT,DPATの活動要領の策定・改訂,人材育成,活動の質の向上に活用されている.</p>

収録刊行物

  • 保健医療科学

    保健医療科学 71 (1), 66-76, 2022-02-28

    国立保健医療科学院

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ