中国における都市住民と農村住民間の経済格差の現状 ―中部地域の湖南省を対象として―

書誌事項

タイトル別名
  • The Disparity of Economic Conditions Between City and Rural Areas-Based on the Central Region Hunan Province-

説明

中国社会は,地域間および都市・農村間の経済格差問題を抱えている。本研究は,中部地域の湖南省を研究対象とし,2020年に出された最新の統計年鑑を用いて,都市住民と農村住民の収入・支出の構造と特に医療サービス支出の現状を分析し,都市住民と農村住民間の経済格差の現状を検討する。中部地域は食糧生産で現在も主要な地域であり,湖南省は特に米の生産で長い間,中国全体で1 位を占めてきた農業大省である。中国政府は沿岸部の東部地域に対して経済発展の遅れた内陸部の地域開発計画を,西部地域,東北地域,中部地域の順に行ってきたが,中部地域の農村住民の所得は他地域より高いわけではなく,都市住民の所得の伸びも他地域ほど大きくないまま,依然として農村住民と都市住民との経済格差が存在している。現在の都市・農村間の格差が現れている典型の1 つとして湖南省を取り上げ,最新の『2020年版統計年鑑』を使用しながら,都市住民と農村住民の収入・支出構造と医療サービス支出の変遷と現在の経済格差状況の分析を行った。その結果,まず収入に関して,1980年から2005年まで格差は縮小していたが,2005年から,都市住民・農村住民間の総収入の格差は定着していること,収入類型別のデータから,資産収入の格差は大きく,賃金収入の格差は固定化し,経営収入は今後,格差を広げる可能性をもち,移転性収入の格差は縮小したが,格差を修正しておらず現時点では収入格差の一要因となっていることを指摘した。これらの格差の根本的な原因として長年の二元的社会構造による都市部への出稼ぎ農民に対する差別的構造が挙げられ,政府は戸籍の統一化の方針を打ち出したが,ごく一部の都市で着手されただけである。次に支出に関して,2000年以降,市場経済の浸透によって都市住民と農村住民の総支出額はともに速いスピードで上昇していく傾向が見られたが,可処分所得に占める比率を見てみると農村住民の支出は可処分所得の90%に接近しており家計に余裕がなくなってきたこと,農村住民の支出項目は都市住民に比べると医療サービスと居住に関する支出割合が大きく,しかも増加していく傾向が見られ家計における負担が大きい状況であること,特に農村部の低所得層ほど負担割合が大きいことから,居住に関わる保障と医療サービスを負担の心配なく受けられることが,農村住民の生活水準を改善し都市住民との経済格差を解決するために重要であることを指摘した。

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