Voices of Abused Children in Contemporary Japanese Fiction: Sayaka Murata’s Tadaima Tobira and Chikyūseijin

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  • 現代日本小説における被虐待児の声 : 村田沙耶香『タダイマトビラ』と『地球星人』を中心に

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村田沙耶香(1979~)は、セクシュアリティやジェンダーの問題を繰り返し描いてきた作家として知られている。一方で、デビュー作「授乳」(『群像』2003・6)を始め、村田文学においては児童虐待の問題もしばしば登場し、とりわけ近年刊行された『タダイマトビラ』(『新潮』2011・8)と『地球星人』(『新潮』2018・5)においては、ネグレクトや身体的・心理的虐待が重要なテーマとなっている。 児童虐待に対する社会的関心が高まるにつれ、1990 年代以降の日本現代文学においては、児童虐待を主題にした作品が増えてきた。児童虐待の問題を最も早い段階で取り上げ、話題を呼んだ内田春菊の自伝的作品『ファザーファッカー』(文藝春秋、1993)や天童荒太のミステリー長編小説『永遠の仔』(幻冬舎、1999)のほか、芥川賞を受賞した中村文則の「土の中の子供」(『新潮』2005・4)は、児童虐待を主題にした作品の代表的な例であろう。更に近年では、山田詠美の『つみびと』(中央公論新社、2019)のような、実際の事件に基づいた創作も増え、児童虐待をテーマにした作品が数多く執筆されてきた。一方で、これらの作品に焦点を当てた研究は極めて少なく、検討の余地がある。そこで、本稿ではまず、日本現代社会における児童虐待問題について概説し、児童虐待に関する代表的な作品を紹介することを通して、本研究の背景及び意義を明らかにする。 児童虐待は深刻な社会問題であるにも関わらず、その早期発見は極めて困難である。虐待を受けている子供たちは自らの置かれた状況について沈黙を守ることが多く、家庭内暴力や児童虐待が未だにタブー視されている現代社会においては、その被害経験を語ることはそもそも容易なことではない。こうした状況の中、親や周囲からネグレクトや身体的・性的虐待を受けてきた女性たちの視点から語られている『タダイマトビラ』と『地球星人』は、フィクションでありながらも注目に値する作品である。本稿では、近年のトラウマ研究を踏まえながら、両作品における児童虐待の描写に着目し、通常では語ることができないトラウマ及び虐待体験が、グロテスクかつシュールな物語展開によってどのように表現され、語られているのかを検討する。そして、これらの分析を踏まえ、虐待サバイバー文学とは異なる村田のフィクションは、虐待を受けている子供たちの声を如何に代弁しているのかを明らかにする。

Journal

  • 表現技術研究

    表現技術研究 17 27-44, 2022-03-31

    広島大学表現技術プロジェクト研究センター

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