海山表面の摩擦条件が付加体変形過程に与える影響と天然への応用

DOI
  • 大熊 祐一
    東京大学大気海洋研究所 東京大学新領域創成科学研究科 国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 野田 篤
    国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 高下 裕章
    国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 山田 泰広
    九州大学大学院工学府工学研究院
  • 山口 飛鳥
    東京大学大気海洋研究所
  • 芦 寿一郎
    東京大学大気海洋研究所 東京大学新領域創成科学研究科

書誌事項

タイトル別名
  • Effects of surface frictional condition on a subducting seamount

抄録

<p>海山沈み込みは,前弧域の構造を変形・複雑にするだけでなく,プレート境界型地震への影響も指摘されており,研究が必要な現象の1つである.ただしこの過程は数万-数十万年かけて生じるため,観測により全体像を把握することはできない.この問題に対して,モデル実験を用いて海山沈み込みを再現するという手法で付加体表面・内部の変形様式の研究が行われてきた1,2.その中でも,乾燥砂を用いたアナログ実験(砂箱実験)で海山沈み込みを再現した研究3では,海山表面の摩擦係数が付加体の内部摩擦係数に近い条件で実験を行い,付加体表面に発達するfracture networkや海山と陸側のBackstopに挟まれた領域の圧縮にともなう激しい変形を海山沈み込みに特徴的な構造として報告した.しかし,近年の海域の反射法地震探査からは強い変形を伴わない海山沈み込みが確認されており4,実際には海山表面の摩擦係数は付加体の内部摩擦係数よりも低い可能性がある.しかし,海山表面の摩擦条件が付加体変形過程に与える影響を検討した例はない。そこで本研究では,摩擦係数の異なる2種類の物質を用いて,海山表面が低摩擦と高摩擦である場合についてそれぞれアナログモデル実験を行い,付加体変形過程における海山表面の摩擦条件の影響を評価した.</p><p> 実験は,講演者の一人である山田によって開発された砂箱実験装置を使用し,プラスチック製の円錐(高さ3 cm,半径14 cm)を縦に半割した海山模型を,堆積物に見立てた砂層(2 cm厚)に沈み込ませることで海山の沈み込みを再現した.同じ装置を用いた先行研究5と同様に砂層には豊浦標準砂を使用し,実験での1 cmが天然での1 km に相当する.海山表面の物質として,低摩擦条件ではテフロンシート(摩擦係数μ= 0.22)を,高摩擦条件では豊浦標準砂(μ= 0.59)を使用した.海山以外の範囲の底面には低摩擦海山と同じテフロンシートを敷いた. また,本実験はYamada et al. (2010)などに倣い,画像解析技術の一つであるデジタル画像相関法を併用し,砂箱内での断層運動を高空間分解能で可視化し6,7,表層の微細な変形の時空間的な変形過程を記載した.画像はインターバルタイマーを用いて砂箱実験装置の上側と側面から撮影を行い,LaVision社製の画像解析ソフト「Davis 8.0」にて解析を行った.</p><p> 断面観察では,低摩擦海山沈み込み時にはプレート境界断層は海山表面に沿って1本のみ形成されるのに対し,高摩擦条件では断層が海山表面から1.5–2 cm上方を不規則に移動し,相対的に厚い剪断領域を形成する過程が観察された.特に高摩擦海山沈み込み時には,断層が上下へ周期的に繰り返して移動する”fault dancing”8が確認された.この現象は,地形と摩擦の2つの効果によって生じると考えられていたが8,本研究の結果から地形よりも摩擦条件の影響を強く受けることが初めて確認された. 表面観察の結果,低摩擦海山が付加体前縁に沈み込んだ直後に海山直上の領域にのみfrontal thrustが形成されること,その後は周囲(海山の影響がない領域)で付加体が成長することで,海山部に湾入地形が形成されることが確認された.この付加体の局所的成長は,本研究が初めて報告する現象で,海山の存在によって砂層が薄くなっている領域のみで観察された.土質力学的な検討によると,同じ材料を使用する場合には底面摩擦と砂の厚さによってfore-thrustの形成間隔が変化することが知られている9,10.今回の結果は,海山の存在によって相対的に砂層の厚さが薄くなったことで,その領域にだけ間隔の狭いfore-thrustが形成されたと考えられる.一方,高摩擦海山沈み込みでは,実験終了まで一貫して湾入地形が形成された. 海山表面の摩擦の違いを,海山を埋積した堆積物の鉛直方向の摩擦強度の不均質性と解釈すると,低摩擦条件は弱面となる層準が存在する場合,高摩擦条件は弱面が存在しない場合と考えることができる. 1. Baba et al., 2001, GRL. 2. Morgan and Bangs, 2017, Geology. 3. Dominguez et al., 2000, Tectonophysics. 4. Davidson et al., 2020, Geology. 5. Yamada et al., 2010, Tectonophysics. 6. Adam et al., 2005, JSG, GRL. 7. Dotare et al., 2016, Tectonophysics. 8. Koge et al., 2018, PEPS. 9. Davis and Engelder, 1985, Tectonophysics. 10. Gutscher et al., 1996, Geology.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573715160738176
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2021.0_127
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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