福島県南相馬市周辺の水理・物質移行挙動の検討

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Study on groundwater flow and solute transfer around the Minamisoma City, Fukushima Prefecture.

抄録

<p>1. はじめに</p><p> 東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により,広範囲に放射性セシウム(以下,Cs)が放出され,阿武隈山地には比較的高濃度のCsが降下・沈着した。これまでの研究ではCsの多くは地表土壌等に強く吸着されていることが明らかとされてきたものの,土壌が薄い地域や基盤の花崗岩類が地表に露出する場所では基盤岩中に移行する可能性は否定できない。 本研究では,公開された地形データと地質情報に基づいて地質モデルを構築し,福島県南相馬市の南部地域を対象に,阿武隈山地から海岸に向けた地域における地下水流動シミュレーションとパーティクルトラッキング解析を実施し,地下水の移動経路や移行時間を推定した。</p><p>2. 研究対象領域と解析方法</p><p> 研究対象域の福島県南相馬市小高区周辺の地形地質は,花崗岩類を基盤とする西側の阿武隈高地と堆積岩類が分布する東側の平野部から構成される。両者の境界には南北走向の双葉断層帯が存在する。久保ほか(1990)によれば、この領域の堆積岩類は,新第三紀後期鮮新世の大年寺層(砂岩)が地表付近に概ね水平に広く分布する。更にその下位には,前期鮮新世の向山層(泥岩・砂岩・礫岩),前期中新世の五安層(細粒砂岩)が分布する。一方,断層の西側の山地部は白亜紀前期の国見山花崗閃緑岩が分布する。 解析領域は,研究対象領域である東西約15㎞,南北約11㎞内に含まれる分水嶺を境界として設定した。また,鉛直方向は解析領域内の最高点522mから標高-1,000mとした。解析領域全体を一律100m間隔でグリッドを設定した。なお,断層より東側堆積岩分布域は,平坦な平野部であり,複数の異なる地質要素が分布することから,解析精度向上のため鉛直方向のグリッド間隔を25mに細分化した。解析には,有限差分法コードであるVisual MODFLOW®を用いた。構築した水理地質構造モデルの各地質要素に原位置で採取した試料の室内透水試験結果と一般的な値を参考に地質要素ごとの水理パラメータを設定した。これらのうち,双葉断層帯と泥岩層の透水係数については高透水性と低透水性の2ケースを設定し,これらの透水性が地下水流動解析結果に与える影響を検討した。解析の境界条件は地表面に該当地域の年平均降水量を与え,側方境界は海側を標高0mの固定水頭境界,その他は不透水境界として定常の地下水流動解析を行った。またパーティクルトラッキング解析は,断層より西側の山地部の地表面からパーティクル(仮想的な粒子)を投入した際の領域境界に到達するまでの移行時間と移行経路を計算した。</p><p>3. 解析結果</p><p>3.1 パーティクルトラッキング解析</p><p> パーティクルトラッキング解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の手前,平野部,そして東側境界(海岸部)に流出した。この傾向は断層と泥岩層の透水係数を変更しても同様の傾向となった。さらに上述の平野部における流出箇所は特定の3地点であり、この位置は解析条件によらず同様の地点となった。</p><p>3.2 移行時間と移行距離の関係</p><p> 山地部から放出された粒子の移行時間と移行距離の関係から、大きく3つのグループ(断層の手前で流出する粒子群,平野部の河川部の特定の3地点で流出する粒子群,海側に流出する粒子群)に区分可能となった。これらは上述のパーティクルトラッキング解析による粒子群の流出箇所と一致する。具体的には,断層手前で流出する粒子群は全体の約80%を占めており,100日前後で全ての粒子が地表に流出している。また,中央の粒子群の移行時間は2000~6000日程度であり,さらに最も右側の粒子群は移行時間が23,000~75,000日で,移行距離は13~15㎞程度を示した。</p><p>4. まとめと今後の方針</p><p> 福島県南相馬市付近を対象に実施した地下水流動解析とこれに基づくパーティクルトラッキング解析の結果,山側から放出された粒子は,断層や泥岩層の透水係数の設定に関わりなく,ほぼ同様な地点に流出する結果を得た。特に平野部の流出地点周辺はいずれも地形の変換地点付近に位置し、地下水が流出しやすい地形条件にある。今後は,解析によって明らかとなった平野部の流出地点における空間線量率などの測定により解析結果の妥当性を確認していく予定である。さらに水理地質構造モデルにおける水理パラメータについても現地調査等でデータを充実させ,解析の信頼性を向上させていく予定である。</p><p>引用文献</p><p>久保ほか(1990)原町及び大甕地域の地質.地域地質研究報 告 (5万分の1地質図幅),地質調査所, 155p</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573715160743296
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2021.0_172
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ