9.肝毒性シミュレーションモデルDILIsym<sup>®</sup>を活用した肝毒性予測

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抄録

医薬品の開発中止/販売中止の主要因の1つとして知られている薬物性肝障害(drug induced liver injury: DILI)1)は厚生労働省の重篤副作用疾患別マニュアルによると、大きく「一般型」と「特殊型」に分類され、さらに一般型DILIは「中毒性」と「特異体質性」に分類される(図12)。中毒性DILIは用量依存性があることが知られており、非臨床段階で検出可能だと考えられている。一方で、特異体質性DILIは「アレルギー性特異体質」と「代謝性特異体質」に分類されるが、その多くは詳細な機序が不明であり、また臨床での発現頻度が極めて低いため、動物・細胞を用いた非臨床試験や少数例の患者を対象とした臨床試験での検出難易度が高い。また、発現したDILIの用量反応性や個人差との関連を考察してヒト肝毒性リスクを正しく解釈することが難しい。そのため、医薬品開発を行うメーカーはヒト安全性を担保するために肝毒性に対して十分な安全域を持つ薬物を非臨床段階で選抜していることが多い。<br>  特異体質性DILIを非臨床試験で検出するために、反応性代謝物生成、ミトコンドリア毒性、胆汁酸トランスポーター阻害などの機序に基づくin vitro試験系が開発されている。これらの試験によって特異体質性DILIの発現機序に対する理解が深まったものの、依然としてそれぞれの試験結果を統合的かつ定量的に解釈してヒト肝毒性を予測することは難しい。<br>  臨床における薬物性肝障害は主に血清中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase: AST)、血清中アラニンアミノトランスアミナーゼ(alanine aminotransaminase: ALT)及び血清中ビリルビンを指標に評価されており、特に肝機能低下を示唆する黄疸を伴う肝障害は予後が悪いことが知られ、急性肝障害によって10~50%の割合で死亡または肝移植に至ると言われている3)。このような重篤な肝障害を検出する1つの指標としてALTまたはASTの正常値上限の3倍以上及びビリルビンの正常値上限の2倍以上が一般的に設定されており、これはHy’s lawという名称でも知られている4)。Hy’s lawの基準は重篤な肝障害を避ける目的では有用であるものの、一方でHy’s lawに該当しても重篤な肝障害につながらないケースもあり、肝障害リスクの過剰評価につながっているとも言われている5)。<br>  以上の通り、非臨床肝毒性評価に対して課題は多く残っており、特に我々は①非臨床試験で取得可能な実験結果の統合的な解析によりヒトDILIを定量的に予測すること、②ヒトDILI(特に特異体質性DILI)が発現した際にその機序や用量反応性、個人差との関連を考察し、リスクを正しく解釈すること、の2点を解決して医薬品開発で直面するDILIを克服することが大きな課題であると考えている。<br>  上記課題を解決するために我々はDILIsym Service社が主導するDILI-sim コンソーシアムに参画し、複数のin vitro肝障害評価試験データ(反応性代謝物生成、reactive oxygen species(ROS)産生、ミトコンドリア毒性、胆汁酸トランスポーター阻害など)に基づいてヒトDILIリスクを予測・評価可能なquantitative systems pharmacology(QSP)モデルであるDILIsym®の有用性を検証した6)。本稿においては非臨床DILI評価においてDILIsym®が注目されている背景、現時点で公知となっているDILIsym®活用事例をまとめ、現在までに行った検証でみえてきた有用性及び課題と今後の展望について紹介する。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573792571796864
  • DOI
    10.50971/tanigaku.2020.22_68
  • ISSN
    24365114
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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