11.<i>In vivo</i>動物モデルを用いた薬物誘導性肝障害評価

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抄録

薬物誘導性肝障害が問題になるのは、正常動物を用いた非臨床安全性試験では検出できず、ヒトに初めて投与、または販売承認後に広く臨床で使用された際にヒトで肝障害が起こるときである。近年では糖尿病治療薬として開発されたトログリタゾンの事例が有名であるが、ヒトで原因不明の肝障害が起こったため、2000年に販売中止となった。過去に販売中止となった医薬品を振り返っても、重篤な肝障害が起こり、死亡例が出た場合には医学的・社会的な問題となることが多い印象が伺える。一方、カルバマゼピンやフェニトインなど肝障害が報告されているが、現在も使われている医薬品があることからも、肝毒性発現の重症度だけでなく、その頻度や使われている疾患領域も販売中止の判断に関連していると考えられる。<br>  薬物誘導性肝障害が起こる機序を解明するための研究は古くからなされており、様々な動物実験やin vitro細胞を用いた論文が報告されている。その中でもヒトin vivoからヒトin vitroへのトランスレーション研究(ヒト臨床で肝障害が起こった機序を、ヒト細胞などを用いたin vitroで解明する研究)は進んでいる一方で、ヒトin vivoで肝障害が起こる理由を論理的に矛盾なく説明できるかについては疑問が残る。例えば、ベンズブロマロンやトログリタゾンの肝毒性の一因としてミトコンドリア毒性が考えられるが、ベンズブロマロン及びトログリタゾンが動物in vivoで肝臓のミトコンドリア毒性を伴う肝毒性を起こすという報告はない。実際に、ラット肝細胞を用いたin vitro検討でミトコンドリア毒性が検出されていることからも1,2)、少なくともラットではin vitroからin vivoへのトランスレーションは完全にできていない。<br>  トログリタゾンの肝障害発現の機序解明に関する研究は20年前から進められているが、現在も完全には説明できていない。様々な実験結果を基に論文報告がなされているが、時代とともにトレンドは変化しており、反応性代謝物による特異体質性肝障害、グルタチオン転移酵素のアイソザイムであるGSTT1とGSTM1同時欠損の関与、ミトコンドリア毒性やトランスポーター阻害など様々な仮説が提唱されている3)。しかし、これらの論文は基本的にin vitroやレトロスペクティブな解析であり、ヒトin vivoでトログリタゾンの肝障害発現の機序を検討してはいないため、トログリタゾンがヒトで使用されなくなった今、本質的に肝障害発現の機序を事実ベースで解明することは不可能に近い。したがって、in vitroからin vivoへのトランスレーションが正しいことを示すためには、非臨床で薬物誘導性肝障害動物モデルを作製してヒト特異的にみられる薬物誘導性肝障害を再現し、in vitroで推定された肝障害発現の機序がin vivoで正しいことを証明することが必須だと考えている。<br>  本稿では、非臨床in vivoモデルを用いた肝障害評価の中でも特に種差・系統差に着目し、1)グルタチオン減少モデル、2)免疫関連性の肝障害モデル、及び3)胆汁うっ滞型肝障害モデルについて紹介する。薬物誘導性肝障害の研究は日本のみならず世界中で精力的になされている。欧米でも肝毒性の種差、特にin vivoモデルを用いた検討を論文投稿している研究者は多く、Robert Roth、Lance Pohl及びJack Uetrechtが研究者として著名である。他にも、ヒト血液サンプルを用いた肝毒性研究をしているKevin Parkの研究室でも興味深い論文が投稿されている4)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390573792574661888
  • DOI
    10.50971/tanigaku.2020.22_82
  • ISSN
    24365114
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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