長唄三味線における駒の演奏準備について : 演奏家の音色へのこだわりを音響分析から考察する

書誌事項

タイトル別名
  • Preparation of a Bridge in Performing Nagauta Shamisen : Exploration into the Performers' Timbral Preferences through Acoustic Analysis
  • ナガウタ ジャミセン ニ オケル コマ ノ エンソウ ジュンビ ニ ツイテ : エンソウカ ノ ネイロ エ ノ コダワリ オ オンキョウ ブンセキ カラ コウサツ スル

この論文をさがす

抄録

三味線は、演奏する度に組み立てる楽器である故、演奏する前に行う準備が音色に大きく影響する。そのため、演奏準備は演奏家から重要視される。なかでも駒は、音色に影響を与える要素が素材、高さ、設置位置の三つあり、これらの選択は、ジャンルおよび流派はもちろん、個人の身体条件やコンディション、楽器の個体差や状態、演奏曲目や演奏する場所によって異なる。特に設置位置についての判断は繊細で、微調整を経て音色を決定するが、長唄三味線の駒の設置位置について、先行研究および演奏家の記した文献を調査したところ、演奏家の記した文献において駒を動かすと音色が変わるという記述はあるものの、駒と音色の関係性について具体的な研究はなされていないことがわかった。そのため本稿では、長唄三味線の演奏家の音色に対するこだわりの一部を、駒の演奏準備の中でも駒の設置位置の観点から明らかにすることを目的とした。その方法として、今回は今藤流の長唄三味線に焦点を当て、当流の演奏家の協力のもと聴取実験を行った。駒の位置を変えることで得られる異なる音色の音源の中から、演奏曲目と演奏場所の規模に応じた好ましい音色と好ましくない音色を選択してもらい、それぞれの音色の時間特性を分析した。聴取実験では、駒の位置を胴の端から25ミリメートルから52ミリメートルの間で3ミリメートル間隔で移動させて一の糸、二の糸、三の糸のそれぞれの開放弦を弾いた音を収録し、3音を1セットとして10セットの音源を用意し、演奏場所の規模と演奏曲目に応じて好ましい音を自由口述で回答していただいた。聴取実験の結果、多少の個人差はみられるが、好ましいと評価された音は胴の端から駒までの距離が28ミリメートルから34ミリメートルに集中することが分かった。好ましいと評価された音の中でも、演奏場所の規模と演奏曲目を想定すると、実験協力者によって選択する音色が異なった。音響分析の結果から、演奏曲目を想定した場合の好ましい音の選択に相違が生じたのは、それぞれの実験協力者が三本の開放弦のどの音に着目したかが異なっていたためである可能性が推測できた。また、好ましいと評価された音と好ましくないと評価された音の違いは、特に三の糸のエンヴェロープ(時間経過に伴う音量の変化)に表れており、好ましい音源の三の糸にのみサワリの特性が現れている可能性を指摘した。今後は、サワリとエンヴェロープの減衰部分の起伏の関係について明らかにするとともに、調査対象とする流派を拡大し、長唄三味線の演奏準備について、より包括的に把握することが課題である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ