新幹線用新型ブレーキパッドの開発[支部賞受賞記念講演]

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  • Development of New Brake Pad for Shinkansen

抄録

<p>新幹線のブレーキディスク用パッドには,開業時から銅焼結のリジッドパッド(Fig.1(a))が用いられてきた.リジッドパッドは高速からの制動時にブレーキディスクがミリオーダーで熱変形すると,パッド面とディスク面とが局部摺動により,スポット状の高温域を生じてディスクき裂の発生やブレーキ性能の低下を招く.新幹線は高速化とブレーキ距離短縮ニーズがあるが,従来のリジッドパッドではこれに対応できなかった.このことから日本製鉄とJR東海では,熱変形したディスクに摩擦材が追従可能なばね構造を有する新型ブレーキパッドの開発に着手し,長期間に及ぶラボ,そしてフィールドテストの結果から改良を重ね,高機能で信頼性の高い新型ブレーキパッド(Fig.1(b)(c))の開発に成功した.</p><p>日本製鉄は新幹線用ブレーキディスク設計メーカであることから,ブレーキの熱変形挙動を詳細に解析することが可能である.これを生かし,ディスク形状に最適化されたばね構造と摩擦材配置のブレーキパッドを検討することができた.具体的にはディスクブレーキ制動時の摩擦によるディスクの温度分布の測定技術開発および測定した温度分布に基づく制動時のディスクの熱変形と連成させたブレーキ制動面圧の解析を実施.これにより制動時の熱変形にも追従して制動面圧を均一化することができ,さらに繰り返しブレーキングで変形が蓄積したディスクに対しても制動初期から後期まで安定して制動面圧を均一化できる等圧構造を有するパッドを開発した.これによって,営業運転速度からの緊急停止や通常運転での減速に必要なブレーキングでの摩擦力は維持しつつ,制動時のディスクの局所的発熱を従来のリジッドパッドよりも100℃以上低減し(Fig.2),ディスクに生じる熱き裂の発生を抑え耐久性を向上した.</p><p>新型ブレーキパッドはばね構造を有するため,当然従来品よりコストUPとなるが,摩擦材1ブロックに対し皿ばね2枚という極めてシンプルな構造を採用することで,コストUPを最小限に抑えている.また省スペースのばね構造を実現したことから,現行車両にも搭載することができ,採用に際し,投資を最小限に抑えることができる.新幹線の高速化に際し,既に現状のリジッドパッドでは適用できない領域に達している.高速化における利用者の利便性改善は言うまでも無く非常に大きい.またブレーキ距離短縮に関しては特に地震時における短縮ニーズが高く,その安全性向上による効果は図ることができないほど大きなものである.</p><p>新型ブレーキパッドは2017年にデビューした東海道新幹線N700A・3次車に採用された.またN700A・3次車だけでなく既存のN700A系車両も随時新型ブレーキパッドへ交換され,最新のN700S系車両にも更なる改良型が継続採用されている.現在では東海道新幹線全ての車両が新型ブレーキパッド搭載車両となっている.</p>

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