今後の日本の社会保障と重症児(者)施策

書誌事項

タイトル別名
  • 特別記念講演 今後の日本の社会保障と重症児(者)施策
  • トクベツ キネン コウエン コンゴ ノ ニホン ノ シャカイ ホショウ ト ジュウショウジ(モノ)シサク

この論文をさがす

抄録

加藤 皆さん、おはようございます。今日は第45回日本重症心身障害学会の学術集会、岡山で開催いただいております。ちょうど25年前に、当時江草先生が大会長として同じく岡山倉敷で開催され、2回目の岡山の開催を本当にありがたく思うところです。 私が今、川崎医療福祉大学に籍をいただいているのも、今申し上げた江草先生の関係でして、私の選挙区はこの倉敷のもっと西側の笠岡市でありまして、その笠岡市で、実は江草先生はお生まれになられた。ご承知のように旭川荘を立ち上げられ、そして重症心身障害児(者)の施設を造られた。まさに日本におけるこうした分野の第一人者として、県内だけではなくて、全国において、またさらには海外においても大変ご活躍をいただいた。残念ながら4年前にお亡くなりになったわけですけれども、そうした足跡が、この岡山をはじめとして地域において広がっている、本当に素晴らしいことだなと思います。 今日はそんな思いも込めながら、また、実は昨日は全世代型社会保障検討会議をスタートしたところでもあり、少し幅広に社会保障について話をし、最後には重症心身障害児(者)施設について少しお話をさせていただければと思っています。 社会保障、あるいは福祉政策を進める基盤というのは、基本的には税であり、あるいは医療、年金、介護では保険料ということになります。税や保険料を支えるものは経済ということになります。経済がしっかりしていくことによって、そうした財源が確保され、そして様々なサービスが展開をされていきます。 日本の名目GDPは、1997年の約534兆円をピークとして20年ぐらいずっと足踏みをし、最近、この水準を超え始めています。右肩上がりの時代から右肩並びか、右肩下がりになってきて、これが様々な意味で日本の経済だけではなくて、社会に影響してきたわけです。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』とか、日本の時価総額はアメリカの株の時価総額よりはるかに多いとか、そんな時代は、世界経済GDPで見ると約16~17%、したがって6分の1を日本経済が担っていた。しかしその後20年間で世界経済は3倍になり、一方で日本は停滞をしたわけですから、今は大体5、6%という状況になっています。リーマンショックのときは、さらに名目GDPは減少しましたが、それ以来、右肩上がりに、要するに経済をしっかりさせていこうと努めています。そういう中で雇用情勢は改善され、就労者数は増えてきているといった、良い姿も見えてきています。働いている人が増えていることも含めて、働いている人全体の収入、まさに皆さんの懐具合は、名目で見ても、物価で調整した実質で見ても、ここ数年プラスに転じています。 言うまでもなく日本は少子高齢化、人口減少が続いています(図1)。この一番上の棒グラフのカーブを見ていただくと分かるとおり、2008年をピークに日本の人口は減少しています。明治を迎えるときの日本の人口は何人ぐらいかご存じでしょうか。3000万人ぐらいなんですね。それから戦争が終わったところで7500万人、それからずっと増えていって、1億人を超えて、そして先ほど申し上げた2008年をピークにその後、減少し、今のペースでいくと今世紀半ばには我が国の人口は1億人を切る、今世紀終わりには6000万人を切る、そのままいくと西暦3000年頃には日本人はいなくなると、こう言われているわけです。一番上の65歳以上の人口が増加をし、そして一番下の年少人口が減少し、真ん中のいわゆる生産年齢人口が今、大きく減少しようとしている。こうした状況にあるというのが一つのポイントです。 それから、もう一つは社会保障の先行きを見るときに、よく2025年とか、2040年とかいう年号が出てくるのですが、日本の出生数、人口構造は、フラットではなくて大きく二つの山があります。昭和22年から24年生まれのいわゆる団塊の世代で、270万人の方が当時生まれた。去年の出生数はなんと90万人ちょっとですから、約3倍の子どもが当時生まれた。そして特に地方で多く生まれた時代であります。そして、その方々が結婚し、子どもを持たれたのがちょうど昭和46年から49年の第2次ベビーブームで約200万人の方が生まれました。 この団塊の世代の皆さんが、法律用語では後期高齢者と呼んでいますけれども、75歳を超えるのがちょうど2025年。そして、団塊ジュニアの皆さんが65歳、いわゆる高齢期を迎えるのが2040年。したがってこの2025年が当面の越えるべき山。そして中期的に越えるべき山が今、申し上げた2040年から2050年。その辺を見据えながら、これからの社会保障の議論を、またあるべき医療、介護、年金、あるいは障害者施策を含めてしっかり議論をし、それに応じた仕組みをしっかり作っていかなければなりません。 その中でもう一つのポイントは、この間は実は、生産年齢人口は大きく減少していますが、働く人は逆に増えているのです。女性で288万人、重複しますけれども65歳で高齢者が266万人増えてきています。高齢者や女性が新たに労働市場に参加しているのです。 経済成長にとって大事なことは、働き手を確保するとともに、生産性を上げていくということであります。いわゆる購買力平価で比べると、アメリカ、フランス、ドイツに比べると日本の生産性は3分の2です。これを上げることができれば、今のマンパワーであっても経済を成長させていくことができるということになります。この社会福祉の分野でも、これをかなりやらないと、なかなか将来の人手を確保することは大変だという話が出てきます。 社会保障給付費、医療、年金、介護、福祉等の全体のお金のうち、皆さんが窓口で負担をするものを除いた、それ以外の費用です。これを見ていただくと顕著な伸びを示しています。2000年のときに約80兆円でしたが、最近では120兆円を超え、1.5倍になっています。しかし、国民所得、経済の規模で見れば、この間10%も増えていません。その中で社会保障給付費の増大を飲み込んできたのです。そしてもう一つ端的に表れているのは、この中の割合です。1970年頃は医療費の割合が非常に高かった。それが2000年にかけて年金が高くなり、最近では介護を中心とした福祉系の予算が大きくなってきている。これが今後さらに進んでいくということが、先ほど申し上げた高齢化等々絡み合わせると見えてくるわけです。 当然、国の予算も大変厳しくなっています。2000年と比べると、社会保障関係費は17兆円ぐらいのものが34兆円に倍増しています。この20年間、社会保障関係費以外の予算はほとんど横並びで推移してきている中で社会保障に必要なお金を確保しながら、また、この10月からは消費税の引き上げを行うことによって、財源も確保しながらサービスの拡充に努めさせていただいているところです。 これから様々な見直しをしていく必要がありますが、先ほど申し上げた全世代型社会保障検討会議において議論をし、必要な具体的な改革はまたそれぞれの、私どもでいえば社会保障審議会等で議論をしていくということにつながっていくわけです。 これからの先行きを考えたときに、2025年まではどういう時代かというと、むしろ高齢者の人口が増えてきた時代です。特に75歳以上は142%増ですから、2.5倍の増加になっています。他方、これからの約20年間は、高齢者の人口はそれほど増えず、地域によってはむしろ人口は減少していく。東京とか岡山では岡山市内は増えてきますけれども、いわゆる中山間地域ではむしろ減少し始めています。15歳から64歳の人口は、この25年間で17%減っていたものが、これから15年間で同じく17%減っていきます。これからの時代は、高齢者に対する対応はもちろんですが、いかに働き手を確保していくかが強く求められると思います。 その中で何をしなければならないかというと、私たちは大きく二つのことを考えています。 まず医療介護等のサービスへのニーズの増大をいかに抑えるか、要するに医療や介護が必要な状況をどう抑制をしていくのかという意味で、健康寿命の延伸、健康予防や疾病予防に取り組んでいく必要があります。それから、もう一つは現場において生産性を上げていくことです。今、ICTとかAIとかロボットとか、いろいろな技術が出てきていますが、それを取り入れることによって、1人の働き手が対応できる範囲を拡大していく、すなわち生産性の向上を図っていく必要があります。 前者の健康寿命の関係では、明らかに高齢者の方々が若返ってきているという数字が出てきています。たとえば、文科省の体力テストの数字を見ると、15年前と比べると5歳若返っています。昭和30年にスタートした『サザエさん』のマンガに出てくる波平さんというお父さんが何歳か、皆さんご存じでしょう。54歳ですね。私、今63歳ですけれど、どちらが若く見えるか。当時の男性の平均寿命は65歳でありましたから、あれからもう60年近く経っていますが、そのぐらい変わっているということです。そして、これからも努力をしていける余地はあるということです。そういうことを通じて働き手を増やしていく、あるいはニーズを抑制していく。そういう努力をしていけば、将来の姿はずいぶん変わってくると思います。 (以降はPDFを参照ください)

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ