根本説一切有部律「破僧事」に見られるデーヴァダッタの五法とその伝承

  • 小南 薫
    Graduate Student, Kyoto University, JSPS Research Fellow

書誌事項

タイトル別名
  • Devadatta’s Five Rules Told in the <i>Saṅghabhedavastu</i> of the <i>Mūlasarvāstivāda Vinaya</i> and Their Transmission
  • Devadatta's Five Rules Told in the Sanghabhedavastu of the Mulasarvastivada Vinaya and Their Transmission

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抄録

<p> 根本説一切有部律「破僧事」(Saṅghabhedavastu)にはデーヴァダッタの五法が二種類登場する.2018年のJens Wilhelm Borglandの研究により,「破僧事」に登場する一方の五法の特殊な文脈,すなわち「破僧事」におけるデーヴァダッタの五法をめぐるストーリーは他部派の律文献のものとは全く異なることが解明された.具体的には,パーリ律などで,破僧(saṅghabheda, 僧団分裂)を契機として五法が説かれるのに対し,「破僧事」では,破僧が失敗に終わり,外道であるプーラナ・カーシュヤパと出会った直後に五法が説かれ,物語が改変されたと指摘する.しかし,依然として二種の五法が混在していた可能性は残ってしまう.</p><p> 本稿では,五法に関する「破僧事」の三つの場面について,先行研究に基づきながら梵文・蔵訳・漢訳の間における問題点を整理してまとめるとともに,「破僧事」と同型の五法を有する文献を比較対象として考察し,「破僧事」に登場する五法がどのように伝承されていたかを検討する.「破僧事」に見られたデーヴァダッタの五法と同型のものは,『阿毘達磨順正理論』やKarmaśatakaといった他の文献に確認できる.しかし,それらはいずれも破僧の契機としてデーヴァダッタの五法を記述しており,Borglandが指摘した「破僧事」の特殊な文脈とは全く逆の文脈で描かれている.「破僧事」が積極的に物語を改変したもののあまり普及はせず,結局,デーヴァダッタの五法という象徴的な要素は,破僧と結びつけて語られることが好まれたのだろう.なぜこのような五法の伝承が起こったのかについては今後の課題となる.</p>

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