洪水災害による被害・避難と生活復興に関する研究

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タイトル別名
  • A Study on Damage and Life Recovery by Flood Disaster
  • Case Study of July 2020 Flood Disaster Hitoyoshi city KUMAMOTO
  • 令和2年7月豪雨における熊本県人吉市を事例として

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 近年では,洪水災害における「逃げ遅れゼロ」と「社会経済被害の最小化」を目的とした水防法の改正(2017年)や,避難情報に関するガイドラインの改訂(2021年)が行われ,従前の避難勧告を廃した5段階の警戒レベルに基づく避難情報の本格運用が開始されるなど行政・住民双方において「新たな対応」が求められるようになってきている。また,災害の発生構造では,2000年代初頭に注目されるようになった都心部でのヒートアイランド現象との関係が指摘されているゲリラ豪雨に代表される「局地集中型」の災害から,地球規模での気候変動の影響によると考えられるスーパー台風や線状降水帯などによる「広域激甚型」の災害へと変化がみられ,2021年からは「流域治水」への政策転換が図られている。災害・防災に関する研究は,これまでに数多くの研究が蓄積され,貴重な成果が示されてきているが,今後に向けても感染症蔓延下での避難のあり方や,被災者支援の方法,生活再建への連動施策などの検討が求められている。本研究では,上述の課題意識のもと,2020年(令和2年)7月豪雨災害において球磨川の氾濫により被害が発生した熊本県人吉市を事例として,被災世帯の位置情報をもとに災害を記録すると同時に,被害や避難の実態を把握し,あわせて,被災者の生活復興感の変化を通して災害対応課題を明らかにすることを目的とする。 </p><p> 2.研究・調査方法 </p><p> 調査にあたっては,被災者支援や家屋修繕等の専門技術を有するNPO連携により結成された被災者支援チーム(アーキレスキュー人吉・球磨)を主体として実施した。同チームにより,被災者宅への声かけによる支援活動の一環として,訪問時に調査趣旨説明と協力依頼を行い,了解が得られた世帯に対して質問紙に沿った対面インタビュー形式により130人(96世帯)から回答を得た。 </p><p></p><p>3.被害・避難状況 </p><p> 本調査地域における球磨川に近接する地区においては全壊家屋が多くみられ,その分布は,浸水深の状況とも一致する。しかし,河川から北側に離れた地域においても住家床面から200㎝を超す高さの浸水・全壊家屋があり,ヒアリング調査から得られた現地の状況から,球磨川に流入する支流からのバックウォーターの影響により被害が拡大したと考えられる事例も見られた。 浸水域内の被災家屋の多くは,大規模半壊以上となっており,1階床面からの浸水の高さ(床上浸水高)が140㎝を超えるものが大半であった。既存の人吉市のハザードマップ(2017年公開)のものと比して,浸水範囲については概ね一致が見られたものの,浸水想定深については実績浸水深が超過する場所が複数地点でみられた。 本調査においては,有効回答92世帯中,自宅外避難の避難所・避難所以外をあわせて37世帯(40.2%)に対し,自宅内避難は55世帯(59.8%)であり,発災当時,浸水域内に相当数の自宅避難者がいたことが想定される。避難契機に関する質問では,各種災害・防災情報よりも自宅への浸水覚知が主要な要因となっていたことが示され,本地域における洪水災害は,市街地への急激な洪水流の流入・増水により「逃げ遅れ」が発生し,これが人的被害の拡大の要因となったものと考えられる。 </p><p></p><p>4.被災者の生活復興感</p><p> 年齢別の「日常生活再開」に対する復興感の推移において,30代以下,40代においては,比較的早い段階でその実感が得られている反面,50代以上の全世代で復興感が概ね50%を得られたのは,発災から4か月後の2020年11月であった。また,年齢別の「まち・地域安定」に関する復興感の推移においては,40代を除き,全体的に低調であり,復興の実感が得られていない状況であった。この背景には,仕事の再開等に伴う経済的自立復興力の違いによるもののほか,被災家屋の取り壊し等による空き地や,転居等による空き家の増加などの地域変化が背景にあるものと考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390575119666807040
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_135
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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