Coordination System of Labor market by Cooperative for community building project
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- KAI Tomohiro
- Gifu Univ
Bibliographic Information
- Other Title
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- 特定地域づくり事業協同組合制度による労働力調整メカニズム
- A case study of Goto City, Nagasaki Prefecture, Japan
- ―長崎県五島市を事例に―
Description
<p>1.問題の背景と研究目的 </p><p> 農村をはじめとする過疎地域は政策文書において「人口減少」や「高齢化」などの課題を抱えた危機的農村として言及されてきた。一方、こうした地域は都市に居住する人々によって「田舎暮らし」「癒し」といった肯定的な評価を受けている側面も有している(立川2021)。そこで過疎地域を抱える自治体では「危機的農村」からの脱却を目指し、都市からの「まなざし」に対応して地域の魅力を発信するとともに、移住定住支援に関わる施策が展開されている。その結果、田園回帰が注目を集め、社会増を実現した自治体が増加している(国土交通省2015)。 </p><p> こうした都市―農村関係は福祉レジームに依拠した国家・市場・家族・地域などの間の役割分担や資源分配の在り方に既定される側面をもつ(立川2021)。具体的には「終身雇用」と「男性稼ぎ主モデル」を前提とした福祉レジームに支えられながら経済成長を遂げた日本では、企業の集中する都市への人口集中が進んだ。一方、農村地域では残存する男性労働力による農業経営が展開し、女性はそれに従属する存在として農村生活分野での活躍が期待されると同時に季節による労働力需要の差を埋め合わせるための労働力として位置づけられてきた。2000年代以降、一連の規制改革の進展によって「日本的経営」が揺らぐと、都市から農村への移動を制限してきた「会社」からの「福祉」が希薄化した。その結果、移動を引き留める力は弱体化している。さらに、経済的な自立性と抵抗力を奪われた農村地域では都市からの「まなざし」を受け入れざるを得ない状況に置かれ、田園回帰の実現に向けて様々な施策を展開されている。 </p><p> その代表的な取り組みの一つが地域おこし協力隊の受け入れである。福祉レジームの解体によって選択的に移動・定住できる自由が増大するなかで、都市部で保障からこぼれ落ちる人々が本制度を活用して農村へ移住するケースが増加している。しかし、既往研究によると、任期後も地域に留まり続けている協力隊員の大部分が、自身のスキルを基に新規就農や起業していることが明らかにされている。このように、任期終了後の新規就農や起業が定住の条件となりつつある実態を鑑みれば、彼らが地元の地域労働市場に与えるインパクトは限定的であり、田園回帰の対象はスキルを持ちうる一部の者に限定的されているといえる。 </p><p> そこで、政府は任期後の起業や新規就農を前提とせずに人口急減地域への移住・定住を促進させるために、特定地域づくり事業協同組合制度を成立させた。本制度では季節による労働力需要の差が生じる地域内の仕事を組み合わせて、新たな雇用を生み出すことを目的とする。派遣労働者は組合との間に雇用契約を結び、季節や時間に応じて地域内の企業で就労する。本制度では無期雇用が前提となるため、派遣労働者に対して過疎地域への定住が期待されている。また、本制度は福祉レジームが崩壊するなかで、地域内の企業による協同組合が地域労働市場内の雇用の調整機能を担いつつある点からも注目されている。そこで、本報告では特定地域づくり事業協同組合の存立構造と当該組織による労働力調整のメカニズムを明らかにする。</p><p></p><p>2.特定地域づくり事業協同組合の存立構造 </p><p> 2021年度より派遣事業を開始した五島市地域づくり事業協同組合の組合員企業は繁忙期補充型企業、雇用チャネル型企業、運営貢献型企業、出資型企業から成る。繁忙期補充型企業は季節による労働力需要の調整機能として本制度を活用している企業である。雇用チャネル型企業は慢性的な人手不足にある企業であり、労働者を確保するための一つのチャネルとして本制度を位置付けている。雇用チャネル型企業には人手不足によって運営費交付金が減額される恐れのある福祉事業所などが含まれている。運営貢献型企業は組合設立に際して出資することで地元企業へ貢献するとともに、派遣先が確保できなかった場合の派遣先として労働者を受け入れることを念頭においた企業である。出資型は派遣先として労働者の受け入れには後ろ向きであるが、地元企業への貢献を目的とした出資を行っている企業であり、商工会の役員企業などが中心であった。</p><p></p><p>3.労働者の特徴と特定地域づくり事業協同組合の機能 </p><p> 調査の結果、本制度を活用している派遣社員の大半が移住者であり、これまでのライフコースの中で困難を抱えている者が目立つ。また、地域内での「移住者コミュニティ」との接点はほとんどない。一方、彼らに対する派遣先企業からの評価は高く、派遣実績のある企業の大部分が本制度の積極的な活用を目指している。 </p><p> これらのことから福祉レジームの解体によって安定的な生活基盤が希薄化するなかで、協同主義的な特徴を持つ当該組合が田園回帰の対象を拡大させながら、地域内の女性が担ってきた労働力の調整弁としての機能を代替えしつつあるといえる。</p>
Journal
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- Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers
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Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers 2022a (0), 133-, 2022
The Association of Japanese Geographers
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390575119666848128
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- ja
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- JaLC
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