日系ブラジル人・ペルー人による持ち家取得過程

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  • The home buying processes by Japanese Brazilians and Peruvians:
  • A case of Yokkaichi City, Mie Prefecture
  • ―三重県四日市市を事例に―

抄録

<p>Ⅰ エスニック集団の持ち家取得</p><p> エスニック集団の居住経歴,特に持ち家取得については,都市社会地理学においても多大な関心が払われてきた。エスニック集団にとって持ち家層への移行は,社会経済的地位の上昇を反映し,また集住地区からの居住地分散を促す一因となる。一方で,この過程に介在するエスニックな紐帯や資金融通に着目し,特有の空間的パターン形成の背景を分析する研究もある。  しかし,既存研究では,エスニック集団の持ち家取得に関わる諸要因のうち,国際人口移動との関連が看過されがちであった。エスニック集団の場合,長期的な居所を定める上で,出身国や他国との比較考量に基づく生活戦略が影響していることは容易に想像できよう。特に日本の南米出身の日系人の場合,より良い職業を求めて移動を繰り返すため,概して居住モビリティが高い。彼ら・彼女らが持ち家層へと移行する過程は,どのような経済的・社会的背景の中で,あるいは今後の居住の見通しの下で生じているのか。これらの点を明らかにすることは,日本の住宅市場における外国人の位置や,今後の「定住」のあり方を考える上で意義がある。</p><p>Ⅱ 対象地域・調査方法</p><p> 三重県四日市市の笹川地区では,UR・県営住宅において1990年代中盤からブラジル・ペルー出身の居住者が急増した。本研究では,笹川地区に在住経験があり,四日市市またはその隣接市町で持ち家を購入したブラジル人・ペルー人を対象とする。調査は,2021年2-3月と翌2-3月,地元で外国人住民の支援活動を行う団体と共同で実施した。この団体が知己を有する外国人,およびその知人で協力を得られた人を対象に,インタビュー調査(1人あたり60-90分)をZoomにて通訳同伴で行い,14世帯17名(ブラジル人9世帯,ペルー人5世帯)のデータを得た。このほか,持ち家購入者の嗜好や属性等の情報を得るために,不動産業者を対象とするインタビューを4件行った(ブラジル人経営1件,ブラジル人スタッフを雇用する業者2件,四日市市内の不動産業者1件)。</p><p>Ⅲ 持ち家取得に至るまでの特徴 </p><p> 対象者は初来日から平均して22.4年経過しており,当初から継続して笹川地区に居住するのは1名のみ,それ以外は同地区への転居までに帰国を含め複数回の引っ越し・転職を経験していた。当初の移住は「デカセギ」としての特徴を色濃く反映していた。</p><p> 持ち家取得に至る最初の動機としては,友人・親族が購入した戸建て住宅を見て気に入ったからという者が多い。物件の探索は,独力で行った1世帯,住宅展示場を利用した2世帯以外は,友人・親族に紹介された不動産業者に頼る形で行われていた。判明している限りで,これら業者はブラジル人経営によるもの,またはブラジル人スタッフを雇用する業者であった。また全ての対象者が,当初は笹川地区内での持ち家取得を考えていた。その理由は,職場への近接性,慣れた生活環境,子どもの学校の3つに大別される。</p><p> ただし,対象者のうち,実際に同地区で持ち家を取得したのは5世帯にとどまる。これには,土地改良に多額の費用を要する場合があるほか,土地区画が広いために価格が高くなりやすいことが影響している。また,費用面から中古住宅を探していても,新築よりローン審査が厳しいことで断念した事例が2件あった。特にフラット35は,派遣社員であっても一定期間の就業経験があれば審査が通るという。価格帯としては,新築(11件)で2.7-3.8千万円,中古(3件)で1.3~2.1千万円であった。不動産業者によれば,新築で3千万円前後が多いとされる。</p><p> 返済額は,新築の35年ローンで月8-11万円となっており,子育てで就業ができない事例を除き,夫婦共働きで支出している。夫婦の少なくとも一方が,正社員か無期の契約社員として就業している。UR住宅での支出額よりはやや増えるが,ローン支払いはそれほど負担ではないという世帯が多い。</p><p>Ⅳ 持ち家取得過程にみる「定住」の契機とその意味</p><p> 日本での長期居住を決断した背景として,子どもが日本で生きていく見通しを挙げた者が半数にのぼった。これには,帰国後の言語の問題や子ども自身の意志が影響しており,既に卒業して日本で就業している子どももいる。ほかに,離婚や病気治療,親族の有無など,「定住」の契機となる背景は様々である。</p><p> 興味深いのは,持ち家取得の前後で,就業の安定への意識が高まっていたことである。ここには,リーマンショック時の経験や,帰国の選択肢を絶ったという決意,40代以降の安定した職確保の難しさ等が影響していると考えられる。日系人移住者の子どもについては,ダブル・リミテッドに代表される言語の問題が,不安的な社会経済的地位の再生産の一因とする研究もある。その意味では,持ち家の取得は,日系人移住者内部における階層分化の現れと解釈することも可能である。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390575119666849280
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_137
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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