ミズタカモジの徳島県における分布

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  • <i>Elymus humidus</i> (Ohwi & Sakam.) Osada (<i>Poaceae</i>) Found in Tokushima Prefecture, Western Japan

抄録

<p>徳島県内に, ミズタカモジElymus humidus(Ohwi & Sakam.) Osada(イネ科)が現存していることが明らかとなったので, 他の知見と併せて報告する.本種は,これまでに「我が国における保護上重要な植物種の現状」(我が国における保護上重要な植物種および植物群落に関する研究委員会種分科会1989),木村ら(1995),および環境庁のレッドデータブック(環境庁自然保護局野生生物課2000)などの資料において,徳島県内にも存在すると記録されているが,最初の発見からこれまで30 年以上もの間, 確かな生育の記録は無く,現状は未確認のままであった.このため,徳島県版のレッドデータブックでは,本種についての記述を削除してある(徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会2001).</p><p> 今回,ミズタカモジの現存が確認されたのは,県南部を流れる那賀川の北岸平野であり,著者の一人,中村によって水田畦において発見された.この地域は,那賀川の氾濫原にあたり,徳島県内有数の広大な水田地帯となっている.本種の発見された地点は,数年間耕作が放棄された水田を再び耕作した場所で(Fig. 1A),土の畦に沿って,数十メートルに渡り生育が確認された(Fig. 1B).その後,同じく那賀川河口域において,かなりの個体数が存在していることが確認できた.さらに,徳島県植物誌(阿部1990)の証拠標本を再検討した所,本書でオオタチカモジAgropyron maebaranum Honda とされている植物(標本:C. Abe 43955, 43956 など)は,いずれも穎果を有しており,ミズタカモジであることが明らかとなった.これらより,本来,ミズタカモジは,那賀川の北岸から勝浦川の北岸にかけての県東部平野にかなり広く分布していたものと推測された(Fig. 2).四国の他県においては,高知県(山中1978)や愛媛県(松井宏光氏 私信)などからも報告がある.しかし,高知県では確実な証拠標本が無く,また,愛媛県でも,その現存量はごく僅かであることから,徳島県内の生育地は極めて重要なものと言える.なお,本種の生育地は,水路脇の斜面がほとんどで(阪本1984),水路の改修によって容易に消滅するので,本種の保護にあたっては,この点に留意することが重要である.</p><p> ミズタカモジは平野部の湿地に生える多年生の植物である.花後に倒伏した茎の下方の節から枝を出して,苗を生じる著しい特徴があり,カモジグサ属の他種とは明らかに異なる(阪本 1978).直立した花穂には,小穂が圧着し,花穂が曲がるカモジグサやアオカモジグサと区別できる.また,内穎の上半部に翼が無いことで,カモジグサから識別され,内穎が護穎と同長である点で,内穎の短いアオカモジグサやタチカモジグサとは区別できる.今回見つかった徳島県産のものは,これらの特徴と一致するのでミズタカモジと同定される.ただし,Ohwi and Sakamoto(1964)が,本種の原記載の中で,「花穂が成熟すると最上の節から一番上の葉をつけたままで脱落する」ことをその特徴としてあげている点については,筆者らが本種を栽培し継続的に観察した所,このような現象は見られなかった(Fig. 1C).野外の生育地での観察でも,花穂が積極的に最上の節で折れることはなかった.地域差も考えられるので,他県の個体での状況などともあわせて,今後の検討課題としたい.</p><p> なお,Keng (1959) の報告しているオオタチカモジについて,Ohwi and Sakamoto(1964)は,ミズタカモジそのものであり,中国にも本種が分布するとしている.さらに本種は中国原産で,ゲンゲなどの導入に伴って日本に渡来したものであろうと考察している(Ohwi and Sakamoto 1964).しかし,これまでに中国で報告されているオオタチカモジは,いずれもElymus shandongensis B. Salomon の誤同定であることが明らかにされている(Chen and Zhu 2006).この同定が正しければ,ミズタカモジは,中国からの帰化植物ではなく,日本固有の在来種と考えられることになる.</p>

収録刊行物

  • 植物研究雑誌

    植物研究雑誌 84 (5), 310-312, 2009-10-20

    植物研究雑誌編集委員会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390575285352055808
  • DOI
    10.51033/jjapbot.84_5_10162
  • ISSN
    24366730
    00222062
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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