フィリピンのマメ科ナハキハギ属

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タイトル別名
  • <i>Dendrolobium</i> (Leguminosae-Papilionoideae: Desmodieae) in the Philippines

抄録

<p>ナハキハギ属はアジアからオーストラリアに18種があり,インドシナが分化の中心と考えられている(Ohashi 1973).これまでフィリピンには2種あるいは3種と記録されているが,さらに1新種を発見した.そこで,フィリピンのナハキハギ属植物を分類的に再検討した.本論文では,フィリピンに1新種を含む4種が生育することを明らかにし,各種に対して検索表,正名,異名,記載,主な標本,などを記録した.以下にこれらの各種について少し解説を加えたい.</p><p> Dendrolobium cumingianum Benth. はルソン島の固有種で,ナハキハギに似るが,小葉は小型(ナハキハギの約1/2)で,果実は2-3個の小節果(ナハキハギは3-8個)からなる.ナハキハギからルソン島で分化した種であると推定している.この類縁関係によく似た種分化のパターンが台湾でもみられる.台湾南部には固有種Dendrolobium dispermum (Hayata) Schindl. が分化しており,この種はナハキハギに最もよく似ている.Dendr. dispermum はその種形容語のように果実は2個の小節果からなり,小葉がナハキハギよりも小型である.海岸に生えるナハキハギに対して,D. dispermum は海岸近くの丘陵地に生える.D. dispermum は台湾南部でナハキハギから分化した種であろうと考えている.ルソン島と台湾とで,ナハキハギからそれぞれの固有種が分化したと考えられる現象は関連があると推測でき,興味深い並行進化の実例と考えている.これら3種の関係はDNA分析を用いて相互関係を調査してみる必要がある.Dendrolobium geesinkii H. Ohashi はルソン島で1986年に発見された.1988年採集者から同定を依頼され,直ちに新種と判断したが,資料不足のため発表を保留していた.1993年5月にルソン島に出掛け,原標本の採集者に同行したE. Reynoso 氏に案内していただいたが,原産地(私有地)に入れず,隣接の地域では発見できなかった.後に,サマル島で既に1883年に採集された標本を Kew で見付けた.まだ花と成熟した果実・種子を観察していない不完全な状態であるが,新種として記載した.この種はフィリピン固有種の Dendrolobium quinquepetalum (Blanco) Schindl. に最もよく似ている.D. quinquepetalum はニューギニアとオーストラリア東北部からも報告されていたが,それらは別種のD. arbuscula (Domin) H. Ohashi であることが分かり,ルソン,ミンドロ島の固有種であることがはっきりした.D. quinquepetalum は短縮して散形花序状となった総状花序を単位とする複総状花序をもつ.これはナハキハギ属で最も複雑な花序であり,最も単純な D. geesinkii の単純な花序(2-4花をつける散形花序)との間には著しい花序構造の変異がみられる.マメ科における花序進化のよい研究材料と考えている.残る1種は沖縄にも分布するナハキハギ Dendrolobium umbellatum (L.) Benth.である.本種はこの属の中で最も分布の広い種で,海岸に生育する.果実がコルク質で厚く,海水に浮くため,海流に乗り,分布を拡げたためと考えられている.しかし,ナハキハギは分布域が広いことと対応して,形態的な変異の幅も広い.小葉の形,小葉の側脈の発達程度,小葉裏面の毛の密度,果実の大きさなどの変異が明らかである.この変異は地域ごとにある程度のまとまった傾向を示しているようにみえる.</p>

収録刊行物

  • 植物研究雑誌

    植物研究雑誌 73 (5), 248-258, 1998-10-20

    植物研究雑誌編集委員会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390575296421396736
  • DOI
    10.51033/jjapbot.73_5_9275
  • ISSN
    24366730
    00222062
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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