δオピオイド受容体を介した情動行動制御とその神経メカニズム

書誌事項

タイトル別名
  • Neural mechanism underlying the regulation of emotional behavior via δ-opioid receptors

抄録

<p>Gタンパク質共役受容体サブファミリーに属すオピオイド受容体のうち,δオピオイド受容体(DOP)は,海馬,扁桃体,内側前頭前野といった大脳辺縁系に多く分布している.筆者の所属する研究グループでは,選択的DOP作動薬SNC80が抗うつ・抗不安様作用を示すことを世界に先駆けて報告し,DOPをターゲットとした向精神薬開発を牽引してきた.しかし,一部のDOP系化合物は痙攣誘発という有害な副作用をもつことから,DOPをターゲットとした情動調節薬の臨床応用は実現されなかった.その後,痙攣誘発作用を分離することに成功した新たな選択的DOP作動薬KNT-127が作出され,臨床応用への緒が再び開かれた.我々はKNT-127をモデル薬物として用い,この新規化合物が強制水泳試験において抗うつ様作用を,また高架式十字迷路試験やオープンフィールド試験において抗不安様作用を示すことを見出した.続けてその脳内メカニズムとして,KNT-127が不安様行動惹起に関わる内側前頭前野前辺縁皮質(prelimbic area:PL)におけるグルタミン酸神経伝達を抑制することをin vivoマイクロダイアリシス法,脳スライスパッチクランプ法により明らかにした.最近,うつ・不安に加えて恐怖記憶の制御においてもDOPが関与すること,特にKNT-127は扁桃体と内側前頭前野に存在するDOPに作用して,それぞれ異なるシグナル伝達経路の活性化を介して恐怖条件づけ試験における恐怖記憶の消去を促進することを見出した.このように,筆者らの研究グループでは,脳内作用メカニズムを理解することに重点を置き,科学的根拠に基づいたDOPをターゲットとした向精神薬の開発を目指して研究を展開している.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 157 (6), 448-452, 2022

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (27)*注記

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