世界各国薬局方における生薬中のヒ素及び重金属に関する規定の比較

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抄録

<p>【目的】</p><p>生薬が含有する元素不純物量に関する、国際基準や世界各国の薬局方における規定を比較し、各国の規制状況及び国際調和の現状を明らかにする。</p><p>【方法】</p><p>国際機関であるWHOやISOの規格の他、WHOが発行するIndex of World Pharmacopoeias and Pharmacopoeial authoritiesに掲載されている国・地域の薬局方英語版及び、生薬・薬用植物に関する国際調和のための西太平洋地区討論会(FHH)の参加国・地域の資料を対象に、元素不純物の上限値や試験法を比較した。生薬は、日本薬局方の生薬総則により定義し、製剤等は対象から除外した。元素不純物は、ICH-Q3Dにおいてクラス1に分類される、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀を対象とした。資料ごとに、規定の有無別の生薬数を算出し、上限値はバブルプロット、試験法は対比表にて図示した。解析アプリケーションはJMP Pro 16を使用した。</p><p>【結果・考察】</p><p>9カ国・地域の資料とWHOのガイドラインを比較した結果、WHOのガイドライン(N=117)では、鉛及びカドミウムに関して、全ての生薬に一律の上限値を推奨し、ヨーロッパ薬局方(N=254)や香港の基準(N=330)では、ほとんどの生薬に対し、4種類の元素不純物ごとに一律の上限値を規定していた。その一方で、日本薬局方(N=173)や中国薬典(N=611)、ベトナム薬局方(N=330)では、生薬ごとに異なる上限値を設け、それぞれ54%、94%及び91%の生薬に、上限値などの規定がされていなかった。伝統医学が生活文化に根付いている国においては、生薬の多様性を重んじる傾向から、各生薬の特徴に合わせた上限値を設けるために、サンプルを検査し、実測値を上限値の参考としていると考えられる。試験法に関しては、ISO規格では、機器分析法のみが記載されていたものの、日本薬局方やインド薬局方(N=90)は、化学的な試験法のみを採用していた。日本やインドは、経済的に分析機器を導入できない、小さな供給元に対して配慮をしていると考えられる。</p><p>【結論】</p><p>世界各国・地域の基準及び、国際機関の規格には、それぞれの文化的背景や生薬の多様性による違いが見られ、生薬の元素不純物に関する規格が国際調和には至っていないことが明らかになった。生薬の多様性を維持しつつ、安全性と品質を確保し、伝統医学の将来的な国際利用を促進するためには、規制の収斂のための新たな国際規格の策定が必要である。</p>

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