切迫早産に対する薬物療法の国際比較

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抄録

<p>【目的】持続する人口減少対策として2022年度から不妊治療に対する保険適用が拡大された。体外受精などの生殖医療の進展により多胎妊娠率が増加し、切迫早産例が増加している。切迫早産治療薬リトドリンについては米国において2011年に発売中止され、欧州では2013年に注射薬のみ48時間以内での使用に限定された。また、2014年にはカルシウム拮抗薬を用いた短期療法の有用性がコクランライブラリーに掲載された。一方、日本では産婦人科診療ガイドライン2020にリトドリン経口薬と注射薬による長期間治療が記載されている。本研究では公表されているデータベースを用いてリトドリンの年次使用動向を解析し、欧米における薬物治療法と比較した。【方法】2015-2019年度の厚生労働省発出の匿名レセプト情報・匿名特定健診情報データベース(NDB)オープンデータ、人口動態調査、地域保健・健康増進事業報告、及び内閣府発出の各診療行為と薬剤等の医療提供状況の地域差(NDB-SCR)を用いて、リトドリン使用動向の経年変化を抽出・解析した。【結果・考察】2015年度からリトドリン総使用量は緩やかに減少し2019年度に83.5%に低下した。年次出生数で補正解析しても欧米で推奨されている短期使用への移行率は低かった。NDBオープンデータからは切迫早産治療のために用いられたカルシウム拮抗薬の使用動向に関する情報を抽出することはできなかった。2019年度での妊婦一人あたりのリトドリン注射薬・内服薬使用量は山形県、新潟県がそれぞれ7.02アンプル、57.3錠と最も多く、佐賀県、群馬県がそれぞれ0.95アンプル、13.7錠と最も少ないなどの地域差があった。一方、出生総数が多い大都市圏においてはリトドリンの使用量が少ない傾向があった。また、全国における2019年度の後発品使用率は57.1%であり地域差があった。欧米からの情報に準拠した切迫早産の短期治療を支持する病院からの発信が増加しているが、公表されているデータからは長期療法が継続されていた。胎児を母体内で発育させ、低出生体重児としての出産を回避することが生涯にわたる知的・社会性発達を含めた健康維持に重要な因子となり得る可能性も指摘されていることに対応する情報収集も必要である。【結論】我が国おける切迫早産治療薬の使用・副作用情報を継続的に収集・解析し、周産期医療のエビデンスを評価することが求められる。</p>

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