先天性心疾患小児患者における病態型薬物動態モデルに基づいたバンコマイシン推奨投与量の構築

DOI
  • 島本 裕子
    国立循環器病研究センター薬剤部 大阪大学大学院医学系研究科病院薬剤学分野
  • 福島 恵造
    Division of Clinical Pharmacology, Cincinnati Children’s Hospital Medical Center, OH, USA
  • 水野 知行
    Division of Clinical Pharmacology, Cincinnati Children’s Hospital Medical Center, OH, USA Department of Pediatrics, University of Cincinnati College of Medicine, Cincinnati, OH, USA
  • 市川 肇
    国立循環器病研究センター小児心臓外科
  • 黒嵜 健一
    国立循環器病研究センター小児循環器内科
  • 前田 真一郎
    大阪大学大学院医学系研究科病院薬剤学分野
  • 川端 一功
    国立循環器病研究センター薬剤部
  • 奥田 真弘
    大阪大学大学院医学系研究科病院薬剤学分野

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抄録

<p>【目的】</p><p>抗菌薬バンコマイシン(VCM)の小児投与量はガイドライン等において40-60 mg/kg/dayとされているが、手術後の先天性心疾患 (CHD) 小児に対して投与する場合、一般的な小児投与量では薬物血中濃度が高値を示すことをこれまでに我々は経験している。そこで、本研究ではファーマコメトリクスの手法を用いてCHD小児における薬物動態モデルを構築し、モデルに基づいたVCM推奨投与量を構築することを目的とする。</p><p>【方法】</p><p>2015年から2018年の期間に国立循環器病研究センターにおいて手術後にVCMを投与された152症例のCHD小児患者のVCM血中濃度1,254点を対象とし、Phoenix NLME 8.3を用いてVCM薬物動態モデルの構築を行った。続いて、構築した薬物動態モデルに基づき、3歳以下のCHD患者に対する腎機能別推奨投与量の算出を行った。腎機能指標はSchwartz式によるeGFRを用い、投与量シミュレーションに際しては400 ≦ AUC/MIC ≦ 600を達成目標とした。</p><p>【結果・考察】</p><p>対象患者の年齢、体重、身長の中央値はそれぞれ0.3歳、4.6 kg、57.5 cmであり、日本人小児における0.3歳の平均値である6.5 kg、62 cmより低い値であった。先天性心疾患重症例では早期より心不全や低酸素血症による低体重などの発育遅延が報告されており、本研究の対象症例においても大部分の患者の身長、体重は対象年齢の平均値未満であり、-2.0SD未満も多くみられた。VCMクリアランスの共変量としてはeGFR、体重、PMA(受胎後週齢)が抽出された。推奨投与量の算出は年齢3か月以下、3.1か月-3歳の2つの年齢区分に対して行い、各年齢区分のeGFR中央値はそれぞれ40および60 mL/min/1.73m2、VCM推奨投与量は25および35 mg/kg/dayであった。推奨投与量は一般的な小児投与量である40-60 mg/kg/dayと比較して低用量であり、CHD小児患者における腎機能の発達遅延が示唆された。</p><p>【結論】</p><p>CHD小児患者では低身長、低体重の成長遅延に加え、腎機能の発達遅延の可能性が示唆された。本研究において算出された推奨投与量を用いることで、手術後のCHD小児において早期に目標AUC/MICの達成が可能になると考えられる。</p>

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