1-6 カニクイザルの心毒性評価に有用なバイオマーカーについて

説明

<p> 臨床における心毒性を非臨床試験で予測するためには、心筋傷害に対して特異的かつ敏感なバイオマーカー(BM)が必要であるが、BMに求められる要件は臨床と非臨床で異なる1)。臨床では、病態を早期に診断できることが求められるため主に感度が優先され、また、治療過程をモニタリングできることも必要である。一方、非臨床試験では比較的高用量が投与されることとも関連して特異性が優先され、また、計画的に投与後一定の頻度で検査を行うため、半減期が長く、傷害後も長期間に亘って検出できるBMが求められる。臨床で使用されているBMを非臨床試験へ適用させるには、対象のBMが実験動物においてもヒトと同様の挙動を示すことが前提であるため、予め病態モデル動物等を用いてそれを検証しなければならない。さらに、BMの検出にはRadio Immuno Assay(RIA)やEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)などの免疫学的測定法が多く使用されており、実験動物に対する交差性がないため使用できないものもある。この場合、該当動物種に交差性を有する抗体を用いた測定方法のバリデーションが必須となる。心毒性BMの多くは、心臓以外の骨格筋にも広く分布しており、拘束や投与などの実験操作自体の影響を受けやすい。また、げっ歯類での同一個体からの頻回採血では採血量および採血間隔に制限があるため、それらを考慮した試験デザインが必要である。このように、臨床心毒性BMを非臨床試験に適用する際には、そのBMの感度、特異性、半減期に関する情報は重要となる。Wallaceらの報告1)では、Myoglobin(Mb)やHeart type fatty acid binding protein(H-FABP)は、分子量が14,000~17,800と小さく、心筋傷害後1~4時間で血中濃度が上昇し、1日で正常状態へ戻る。また、古典的な心毒性BMとして使用されてきたMB isoenzyme of creatine kinase (CK-MB)は、分子量が86,000とやや大きく、心筋傷害後3~12時間後に血中濃度が上昇し、2~3日後には正常状態へ戻るとされている。一方で、分子量が135,000と大きいLactate dehydrogenase(LDH)は、心筋傷害後に血中濃度が上昇するまで10時間を要し、10~14日後に正常状態に戻る。このように、これまで使用されてきた心毒性BMは、感度と持続性が両立しておらず、傷害早期に血中濃度が上昇するBMは消失期間が短く、一方で消失期間が長いBMは傷害後の血中濃度上昇までに時間を要した。しかし、今日、臨床で繁用されているBMである心筋トロポニンTおよびI (cTnTおよびcTnI)は、分子量がそれぞれ37,000 および22,000と小さく、心筋傷害後3~12時間後に血中濃度が上昇し始めるが、高値状態は5~14日間持続し、傷害後早期に検出できる感度と持続性を両立している。このような背景から、臨床では心疾患の評価にcTnTおよびcTnIが標準的に使用されており、非臨床試験においても近年cTnTとcTnIは使用され始めている。また、各種実験動物においてヒトと同様の心筋傷害に対する高い特異性も確認されている。いくつかの文献2,3)では、心筋傷害誘発物質を投与した心筋傷害モデルで血中のcTnTおよびcTnI値と心筋の病理組織学的変化との関連性を評価し、cTnTおよびcTnIの変化は心筋壊死を反映していることが報告されている。しかし、心筋傷害の誘発に使用されている物質は少数であり、今後も様々なタイプの誘発物質による心筋傷害モデルを用いた評価が必要となってくる。2011年にFDAのBiomarker Qualification Review Team4)によってこれらに関する多くの文献が調査され、ラットとイヌにおいてはcTnTおよびcTnI の有用性が報告された。一方で、サルについては文献数が少ないため、有用性は評価されていなかった。 しかし、Review Teamの報告書4)にはいくつかのサルに関する文献が引用され、2009年の我々の報告5)から、cTnTおよびcTnIはカニクイザルの心筋傷害に感度・特異性が高く、薬剤誘発性心筋傷害の検出に有用であり、その有用性はラットやイヌと同様であると考察されている。本稿では、我々が実施したカニクイザルにおけるcTnTおよびcTnIの検討から得た知見を基にその有用性を詳述し、さらに近年は新たな測定方法も開発されているため、非臨床におけるcTnTおよびcTnI測定の今後の展開についても提案したい。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390576037463084032
  • DOI
    10.50971/tanigaku.2016.18_30
  • ISSN
    24365114
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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