重力崩壊型超新星の物理――研究の現状と今後の課題

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Physics in Core-Collapse Supernova―Current Status and Future Prospects

抄録

<p>重力崩壊型超新星爆発は,宇宙で起こる大質量星の爆発現象である.爆発を駆動している星の中心付近では,高密度(核密度)かつ高温(10 MeV以上)環境が実現され,強い力・弱い力・電磁気力・重力という自然界で働く4つの基本的な力全てが爆発機構に関わっており,理論物理学の観点からも興味深い.爆発によって重元素の生成と宇宙空間への放出が起こるため,宇宙の化学組成を決める重要な天体現象である.また,爆発後には中性子星やブラックホールなどの高密度天体を残すことから,宇宙で起こる様々な他の高エネルギー天体現象とも密接に関連する.このように,重力崩壊型超新星爆発の研究は非常に学際的な分野であり,素・核・宇宙・天文学などの幅広い分野の研究者らによって,実験・観測・理論・シミュレーションなどの様々なアプローチにより研究が行われている.</p><p>超新星爆発を駆動している中心エンジンは,複数の物理過程が非線形に絡まった系である.その爆発機構は複雑で,理論宇宙物理学の難題の一つとして位置づけられてきた.しかし,ここ10年ほどの間に,超新星爆発の理論は著しく進展した.特に,理論計算(数値シミュレーション)においては,それまで爆発の再現に失敗していたのに対し,近年ではこれに成功するモデルが多く報告されている.こうした進展の一つの理由は,計算機能力の向上と数値計算手法の発展のおかげで,より正確に詳細な物理過程を取り込んだ多次元ニュートリノ輻射流体計算が実行可能になったことである.例えば,第一原理計算に最も近いとされる,ボルツマン方程式を直接解く多次元輻射流体計算が「富岳」などのスパコンで少数のモデルに対して実行されている一方,近似的なニュートリノ輸送法を用いた多次元計算がより多くのモデルに対して系統的に行われている.また,ニュートリノと物質との弱い相互作用の扱いについても精密化が進み,例えば核子のweak currentにおける形状因子やストレンジネスの寄与,さらには多体効果なども,シミュレーションでは既に取り込まれている.</p><p>シミュレーションが,長時間かつ様々なタイプの大質量星に対して系統的に行えるようになり,観測量の定量的な推定が行えるようになってきたことも,近年の重要な進歩である.実際,過去の超新星理論モデルとは違い,最終的な爆発エネルギーの値や形成される中性子星の質量や半径などが定量的に議論できるようになってきた.電磁波・重力波・ニュートリノに関する理論モデルの精度も格段に上がり,マルチメッセンジャー天文学の発展にも貢献している.</p><p>このように超新星爆発の研究は,近年著しく発展したが,それでも超新星爆発機構が完全に解明されたわけではない.実際,現在考慮されているニュートリノ反応の取り扱いには不定性が大きく,それが爆発可否に影響する可能性がある.また,ニュートリノ集団振動に代表される量子運動論的な効果は,現在の最も進んだ超新星爆発計算にも取り込まれておらず,現在の超新星爆発の理論を一変させてしまうかもしれない.ニュートリノ反応計算の精度を上げ,量子運動論的ニュートリノ輻射輸送計算に基づいた超新星モデルの再構築が,今後10年の超新星爆発の理論的研究の主要なターゲットになるだろう.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 78 (1), 13-21, 2023-01-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390576137318936448
  • DOI
    10.11316/butsuri.78.1_13
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ