表面弾性波共振器マグノメカニクス

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タイトル別名
  • Cavity Magnomechanics with Surface Acoustic Waves

抄録

<p>熱や音の素励起であるフォノンは,観察対象を不明瞭にしたり,デバイスの動作性能を劣化させたりするなど,しばしば実験家を悩ます存在である.しかしながら,超音波などの音響フォノンは,同一周波数の電磁波と比較して,波長が5桁も短く,エネルギー損失が小さいという特徴をもつ.それゆえ,情報担体として利用すれば,デバイスの小型化や省エネに繋がるという期待がある.</p><p>フォノンの制御技術は,エレクトロメカニクスやオプトメカニクスといった分野において近年精力的に研究されてきた.圧電効果や光音響効果のような振動と電気,もしくは光との結合現象の理解が進み,成熟したエレクトロニクスやフォトニクスの知見や技術をフォノン制御に活用できるようになった.その結果,フォノン物理の理解や,その応用可能性が飛躍的に高まった.</p><p>フォノンは,物質の格子振動としても現れることから,同じく格子中の電子スピンの集団運動であるマグノン(スピン波)と磁気弾性効果を通して相互作用する.これにより,マグノンを用いたフォノンの励起,またはその逆過程によるマグノン励起が可能となる.そして両者が双方向に作用する強結合領域では,マグノンポーラロンと呼ばれる準粒子状態が形成される.ここでは,両者の特長が共存し互いの性質を補完しあうため,フォノンの高いコヒーレンス性によるマグノンの長距離輸送や,マグノンの磁気感受性や非線形性,非相反性などの諸特性を用いて,より自由度の高いフォノン制御への期待がある.</p><p>マグノンとフォノンを研究対象にした学際領域はマグノメカニクスと呼ばれる.特に表面弾性波(SAW)デバイスは,基板表面を伝わる高周波振動と,強磁性体中のマグノンとの相互作用を容易に観察できる基本素子である.SAWによるマグノンの励起だけでなくフォノンの動力学的回転を介したマグノンとの相互作用物理の探求など,先駆的な取り組みが近年報告され始めている.しかしながら,これらはSAWの伝搬波を扱っており,相互作用が小さく,観測可能な現象やそれを用いたフォノン制御にも限界があった.</p><p>我々は,この課題に取り組むため,共振器マグノメカニクスの概念を導入した新しい磁気弾性デバイスを提案,実証した.周期金属細線からなる音響ミラーを両端に据えたSAW共振器は,良好なQ値を示し(Qa=4,500),強い閉じ込め効果によって小さな損失を示す(κa /(2π)=210 kHz).圧電的に励起された1 GHzのSAWは,共振により高強度の振動となり,磁気弾性効果を介して効率的なマグノン駆動を可能にした.そして,マグノンによるSAW共振への反作用によって,SAW共振周波数の変化やQ値の低減といった共振特性の変化も現れた.理論モデルとの比較から,マグノン・フォノン間の結合レート( g /(2π)=9.9 MHz)の算出に成功し,強度比で50%以上のフォノンがマグノンへコヒーレントに変換されることを明らかにした.一方で,今回はマグノンの損失過多のため,強結合状態を実現するまでには至らなかったが,これは低磁気損失膜への変更など強磁性体の最適化を通して解決可能である.</p><p>本成果から,SAW共振器の導入はフォノンの損失を著しく抑制し,マグノン・フォノン相互作用の増強に有効とわかった.これにより,従来,観測の難しかった磁気弾性効果も顕在化し,マグノンの特異な特性を利用したフォノンの新しい制御技術の創出が期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 78 (2), 73-78, 2023-02-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390576502655647744
  • DOI
    10.11316/butsuri.78.2_73
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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