日本の保健医療分野における人工知能(AI)の開発と実装の取り組み

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  • The challenge to develop and implement artificial intelligence (AI) technologies in health and medical care in Japan

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抄録

<p>本稿では,日本における人工知能(AI)の開発と応用に向けた取り組みを概観するとともに,特に保健医療分野に焦点を当てて,AIの研究開発や社会実装に関するこれまでの成果を振り返り,今後の展望を論述する.</p><p>AIは日本の科学技術・イノベーションの推進と経済成長に不可欠な中核的な技術の一つとして明確に位置づけられている.平成28年度からの第 5 期科学技術基本計画においてAI は「Society 5.0」を実現するための重要な基本要素であること,また成長戦略においてもAIは日本の経済成長と生産性の向上のための主要な手段であることが明示された.</p><p>平成29年,総務省,文部科学省,経済産業省が設置した人工知能技術戦略会議によって「人工知能技術戦略」が策定され,その中で,生産性,健康,医療・介護,空間の移動,情報セキュリティが重点分野として明示された.また平成31年に策定された「人間中心のAI 社会原則」においてAIを活用する上で考慮すべき倫理面等の問題が提示された.そして同年,これらの戦略や原則を踏まえて,内閣府によって最初の「AI戦略」が策定され,全省庁を含む政府全体でAIを推進する枠組みが構築された.この戦略の中で,AIの社会実装を達成すべき優先領域として,健康・医療・介護,農業,国土強靭化(インフラ,防災),交通インフラ・物流,地方創生(スマートシティ),ものづくりが設定された.</p><p>厚生労働省は,保健医療分野が当初からAIを活用すべき分野に位置づけられたため,早い段階から積極的にAIの推進に取り組んできた.令和 2 年に保健医療分野におけるAI 開発を加速するための工程表が策定され,「ゲノム医療」,「画像診断支援」,「診断・治療支援」,「医薬品開発」,「介護・認知症」,「手術支援」,「予防(PHR)」,「人工知能開発基盤」,「診療報酬支払業務の効率化」を重点領域として様々な取り組みが進められている.特に「画像診断支援」に関しては,関連する多くの研究課題が実施された結果,関係 6 学会の協働による画像データベースが構築されるなど,著しい進展がみられている.その他,産学の保有する創薬ターゲット,薬効,毒性に関するデータの集約と創薬のためのAIの構築,高度な医療サービスの提供,医療従事者の負担軽減,医療の生産性の向上を目指した「AIホスピタル」などの取り組みが行われている.</p>

収録刊行物

  • 保健医療科学

    保健医療科学 72 (1), 2-13, 2023-02-28

    国立保健医療科学院

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