プラザ合意以後の日本経済の推移と岸田政権の課題 : 岸田政権の経済政策と国際経済の動向との関連で

書誌事項

タイトル別名
  • The Transition of the Japanese Economy after the Plaza Accord and the Task of the Kishida Administration : In Relation to the Economic Policies of the Kishida Administration and Trends of the International Economy

説明

1985 年9月のプラザ合意によって急速に円高ドル安が進行し,それによって日本経済は円高デフレが加速していった。日本企業は,製品の価格を引き下げ,コストダウンさせる企業努力を行った。たとえば1ドル=200円が1ドル=100円の円高ドル安になった場合,200円の価格を100円に引き下げて輸出すれば,円高ドル安にもかかわらず,輸出を増やすことができる。加えて日本の自動車産業や家電産業などは,生産拠点を海外に移転させていった。また為替予約などによって,日本企業は損失を被らないように努力を図った。 こうした企業努力に加え,政府は貨幣供給量を増やし,低金利で企業や個人に貸し出していった。その結果,輸出の増大=海外需要の増大,国内需要の増大が達成されて,平成景気(バブル景気)を生みだした。しかしインフレが加速した結果,バブル景気は崩壊した。 プラザ合意以後の円高ドル安の加速によって,日本経済はデフレが加速し,実質賃金が上昇しない結果となった。また円高デフレの加速は,終身雇用・年功序列・日本独自の賃金制度(ボーナス制度や退職金制度)を軸とする日本的経営の崩壊を加速させ,新自由主義の時代を創りだしていった。 2012 年発足の第二次安倍内閣では,①異次元の金融緩和政策,②財政政策,③成長戦略を3本の矢とするアベノミクスを施行し,企業利益の増大とそれに伴う株価上昇を実現し,企業の内部留保は2021 年までの9年間上昇を続けた。一方,国内投資が減少し,結局,実質賃金の上昇という成果を得ることはできなかった。 J. S. ミル(John Stuart Mill, 1806-1873)によれば,実質賃金の増大のためには,①食糧価格(生活必需品価格)の低下,②労働生産性の向上,③人件費=労働費用の低下,が重要な経済政策となる。労働者の貨幣賃金が一定の場合でも,食糧価格(生活必需品価格)が低下すれば,その分だけ実質賃金が増大する。しかも労働能率が高まれば,労働者数の減少によって,これまで以上の商品の生産量を生産できる。 労働者は全体の労働者数が減少した分だけ,多くの貨幣賃金を得ることができるため,労働分配率は高まる。一方,資本家は人件費=労働費用が低下し,従来以上の商品生産量を生産し,利益が増大すれば,自らの利潤率を高めることができる。 2021 年10 月発足の岸田政権下では,ロシアのウクライナ侵攻の激化や,円安インフレの加速によって,食糧価格(生活必需品価格),電気やガスなどのエネルギー価格が急速に上昇し,国民の実質賃金が低下する結果,国内需要は低下し,不景気を生み出す問題に直面している。岸田首相はアベノミクスからの経済政策の転換を図り,円高ドル安の方向への経済政策への方向転換を緊急に実現しなければならない。

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