若年健常者におけるベッドからの起き上がり動作の分析

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抄録

<p>(緒言)</p><p> 臥位から座位に姿勢を変換する起き上がり動作は,寝具からその外部空間へと移動する際に経由する動作である.この動作が阻害されることは寝たきり状態の誘因となる為,リハビリテーション分野ではこの動作の再獲得は重要なテーマとなっている.McCoyらは,若年健常者のベッド上臥位から立位に姿勢を変換する動作について,右上肢,左上肢,頸部・体幹,下肢の身体4部位の運動パターンを分類している1).McCoyらの研究では,臥位から座位を経由して立位になるまでの動作を対象としている.つまりこの動作の最終姿勢は立位である.ベッドから起き上がる際には,必ずしもすぐに立位になるケースばかりではなく,座位姿勢でいったんとどまるケースもある.この場合は動作の最終姿勢が座位となる.最終姿勢を立位姿勢として実施される起き上がり動作と,最終姿勢を座位姿勢として実施される起き上がり動作では,用いられる身体運動が異なる可能性がある.そこで本研究では,最終姿勢を座位姿勢としたベッドから起き上がり動作を対象とし,その動作パターンが,McCoyらが用いた分類(以下,McCoy分類)にて網羅的に分類可能かどうかを明らかにすることを目的とした.</p><p>(研究方法)</p><p> 対象は若年健常者38名(男性15名,女性23名.平均年齢21.7±1.5歳)とした.被験者には研究の内容を十分に説明し,全被験者から同意書を得た.被験者にはベッド上仰臥位から普段行っている方法で起き上がってもらい,ベッド右側の端坐位姿勢を最終姿勢とした.動作回数は1回とし,動作速度は快適速度とした.4台のビデオカメラで撮影し,動画解析ソフトFrame-DIAS Ⅴ(DKH)を用いて動画の同期および解析を実施した.被験者全員の右上肢,左上肢,頸部・体幹,下肢の4部位の運動について,McCoy分類を用いて分類した.</p><p>(結果)</p><p> 右上肢は“外転拳上+プッシュ”パターンが最も多く13例(34.2%)であり,“プッシュ”が9例(23.7%),“ベッド端把握”が6例(15.8%)であった.右上肢の10例(26.3%)はMcCoy分類にあてはまらなかった.左上肢は“プッシュ”パターンおよび“拳上+リーチ”パターンが最も多く14例(36.8%)であり,“拳上+プッシュ”が5例(13.2%),“ダブルプッシュ”が2例(5.3%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.頸部・体幹は“体幹回旋”パターンが最も多く16例(42.1%)であり,“前方屈曲”が9例(23.7%),“側臥位”が7例(18.4%),“骨盤先行”が5例(13.2%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.下肢は“左右非対称”パターンが最も多く22例(57.9%)であり,“対称”が7例(18.4%),“非対称(大腿平行)” が6例(15.8%),“非対称(膝伸展)”が2例(5.3%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.</p><p>(考察)</p><p> 起き上がり動作時の身体運動については,すべての部位において複数の運動パターンが存在した.右上肢はベッド端をつかまずにベッドを押す方略をとるものが多いことが示唆された.左上肢はベッドを押すものが多いが,ベッド押さずにリーチするものも相当数いることが示唆された.頸部・体幹は体幹を回旋するものが最も多いが,体幹を回旋させず前方にまっすぐ起き上がるパターンや側臥位を経由するパターンもある程度存在することが示唆された.下肢は左右を別々に動かすものが大半を占めるが,一部は左右下肢を同時に動かすことも示唆された.</p><p> それぞれの部位においてMcCoy分類にあてはまらない運動が認められた.特に右上肢については分類不可のものが多かった.右上肢で分類不可であった10例のうち9例は,右上肢でベッドを複数回プッシュする運動パターンであった.これを“ダブルプッシュ”パターンとして追加することで,右上肢の運動パターンをより網羅的に分類することが可能になると考えられる.</p><p>(倫理規定)</p><p> 本研究は本学研究等倫理委員会の承認を受けて実施した(申請番号2017-15).</p>

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