視覚遮断環境下での手の把握(ピンチ)力調整能力と各指の役割分担の検討

DOI
  • 吉野 智佳子
    千葉県立保健医療大学リハビリテーション学科作業療法学専攻
  • 森田 良文
    名古屋工業大学大学院工学研究科電気・機械工学専攻

この論文をさがす

抄録

<p>(緒言)</p><p> 日常生活の中で物品を把持する際は,例えば水の入ったコップを持つ時に水がこぼれぬよう傾けずにコップを把持する時,把持での運動機能と指腹の触圧覚や手指の関節角度の調節という感覚機能をバランスよく用いながら場面に応じて把握力を調整していると考えられる.頚髄症などにより運動機能と感覚機能が低下することで物品を握り潰す1)症状などが報告されており,日常生活で支障をきたしているものの,感覚機能へのリハビリテーションアプローチは運動機能へのアプローチよりも特に難しいのが現状といえる.</p><p> 前年度の学内共同研究において,感圧測定システムを利用した実験を実施した結果,各指(拇指・示指・中指・環指・小指)の触圧力のデータから各指の役割分担についてはある程度可視化できたが,総合的な把握力については測定できていなかった.今回,共同研究者が作業療法士と開発した把握力調整能力評価トレーニングデバイスiWakka2)を用いて,感圧測定システムでの測定に加えて総合的な把握(ピンチ)力を測定しiWakkaの測定システムに内包されたグリップマッチング課題により把握(ピンチ)調整能力が開眼と比較して閉眼の影響による触圧覚(表在感覚)と関節角度の調節能(深部感覚)の総合的な感覚機能の変化について検討することを目的とする.</p><p>(研究方法)</p><p> 被験者はリハビリテーション学科学生20名(男性9名,女性11名)で,全員右利きであった.実験前に実験に関する説明を十分に行い,実験途中での中止を求めてもよい旨説明した.同意書にて全員同意の確認を行った.</p><p> 被験者は椅坐位にて感圧測定システム(KS-SYS1A-2:キャノン化成㈱製)の感圧センサーを拇指・示指・中指・環指の指腹に貼付し,各指基節骨部と手関節部をベルクロにて固定した.課題は利き手にて行った.課題1としてiWakkaのグリップマッチング課題の設定を200gにして,ディスプレイを見ながら50秒間把持して持ち上げる(持ち上げ課題),課題2として,ディスプレイの数値を見ながら120gの把握力で開眼にてiWakkaを50秒間の把握を行った後,把握力が定常状態に到達して開眼で15秒以上経過したことを確認後に閉眼させて35秒間,力を維持させる(把握調整課題)課題を90秒間測定した.なお,課題1の持ち上げ課題では,iWakkaが滑り落ちる危険性が生じたため,400gを維持するよう被験者に指示を行った.</p><p> データ解析は,各課題による把持の違いがみられるかなどグラフ化し,各指(拇指・示指・中指・環指)について定性的分析を行った.</p><p>(結果)</p><p> 課題1では,拇指が他指より感圧値が高いタイプが3名,拇指が高いが他指も感圧値が比較的感圧値が見られるタイプが7名,中指が一番高いタイプが5名,環指が一番高いタイプが4名,示指が一番高いタイプが1名であった.課題2では,閉眼後にiWakkaの数値が低下した者が14名,上昇した者が5名,開眼時とほぼ変化のない者が1名であった.</p><p>(考察)</p><p> 課題1について,バドミントンやテニスなどの運動経験がある者は握力把握系にて把握しやすく,精密把握系についても過去の経験から何らかの理由で精密把握しやすくなっていることが考えられる.今後過去の活動経験についても照らし合わせ,分析を進めたいと考えている.課題2について,閉眼後は数値が低下する被験者が多く,臨床場面とは相反する結果となった.感覚機能が保たれている健常者と頚髄症などの患者との違いについて今後は臨床場面での測定を行い,検討を行いたい.</p><p>(倫理規定)</p><p> 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理の承認を得て実施した(申請番号 2019-09).</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ