抄録
近年、パーソンセンタード・アプローチ(以下、PCA)において、Levinas の他者論をセラピー理論に援用する取り組みが注目されている。これらは、セラピスト(以下、Th)を主体、クライアント(以下、Cl)を他者として論じるものがほとんどだが、Goodman et al.(2010)は、Thを、Clにとっての他者とみる視点からセラピーを論じている。Goodman et al.(2010)は、LevinasやBeckerを引用しつつ、現代社会、そして現代心理学が、いかにヒロイックな自己中心主義に支配されているかを論じる。そのような自己は、他者に開かれず、他者の声を聴くことがない。自己は自己の存在に閉じ込められ、孤立している。このような孤独や閉塞感を抱えるClとのセラピーにおいては、Clが自身の存在の同一性を超えて、他性と超越の次元に開かれる機会を提供することが求められる。Levinasは、自分自身の同一性においてアイデンティティーを確立することが決して許されないような自己を主張した。これは絶え間なく問いただされる自己である。現代心理学的自己もまた、問いただされ、曝され、そして正義に導かれる必要がある、というのがGoodmanの主張である。PCAも、Goodmanから見れば、人間の自然な状態を前提とした、エゴイスティックな心理療法の一つといえよう。この批判を受け、PCA理論の自己中心性について考察する。他者に開かれることの意味を追求することは、出会いを重視するPCAの対話的アプローチや、エンカウンターグループの意義を先鋭化させ得るだろう。
収録刊行物
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- 関西大学心理臨床センター紀要
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関西大学心理臨床センター紀要 14 23-33, 2023-03-15
関西大学大学院心理学研究科心理臨床センター
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390577078295234176
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- HANDLE
- 10112/00028019
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB