福岡県北西部における日本海拡大後の火山活動

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  • Volcanism after the Japan Sea opening in NW Fukuoka Prefecture, Kyushu

抄録

<p>北部九州には,日本海拡大以降の新生代アルカリ玄武岩類が広い地域に分布する.特に長崎県から佐賀県にかけて分布する北松浦玄武岩(8.5〜6.0 Ma:Sakuyama et al., 2009)や東松浦玄武岩(3.01〜2.92 Ma:Nakamura et al., 1986)ではまとまった量の玄武岩溶岩類が累重し,広大な溶岩台地を形成している.一方,その東方の佐賀県北部・福岡県北部・山口県下関市付近にも同時期のアルカリ玄武岩が分布するが,いずれもごく小規模な溶岩ないし岩頸として点在する.これら小規模なアルカリ玄武岩は,既存地質図では鮮新世ないし更新世のアルカリ玄武岩溶岩としてまとめられている.</p><p> 今回,福岡県北西部の糸島半島及び小呂島を含む島嶼において,アルカリ玄武岩の岩相及び活動の時空変遷把握を目的に,小規模に分布するアルカリ玄武岩の調査を行った.その結果,これら玄武岩は大きく1)後期中新世(10 Ma),2)鮮新世(4.5〜3 Ma),3)更新世(1 Ma)の活動時期に区分されることが明らかになった.本発表では,これらアルカリ玄武岩の岩相や年代など,現時点までに得られた知見を既存研究と併せて報告する.</p><p></p><p> 1)後期中新世(10 Ma):本調査範囲で後期中新世の火山岩は小呂島に露出する.小呂島は玄界島から北西方約27 kmに位置し,周囲約3.3 km,最高標高109.3 mである.海岸は大部分が高さ6〜100 mほどの断崖となっている.基盤は露出しておらず,全島火山岩からなる.溶岩はクリンカーを挟んで少なくとも7枚あり,最下部と最上部の溶岩には石英が含まれる.最下部と最上部の岩石の組成は玄武岩質安山岩からなり,そのほかは玄武岩と見られる.今回,最下部の岩石についてK–Ar年代を依頼測定した結果,10.78 ± 0.25 Maの年代を得た.</p><p> 2)鮮新世(4.5〜3 Ma):糸島半島付近における鮮新世火山岩は,可也山(4.50 Ma),玄界島(3.70〜3.59 Ma),姫島(3.43 Ma),芥屋の大門(3.19 Ma),毘沙門山(3.66 Ma),今山(3.71 Ma)に分布する(年代値はいずれもK–Ar年代:松本ほか,1992).また,本調査で志摩西貝塚1地点,火山(志摩野北)北方と南東方の2地域で新たに玄武岩溶岩(岩頸)を確認した.これらはアルカリ玄武岩からなり,角閃石の有無から2つの岩相に区分できる.角閃石を含む岩相が認められるのは,可也山,玄界島,火山南東方の3地域である.3地域のうち,火山南東方の玄武岩中の角閃石はリムのみオパサイト化しているが,可也山及び玄界島の玄武岩中の角閃石は全体がオパサイト化しており,仮像として残っている.なお,可也山には角閃石を含む岩相と含まない岩相の両者が認められ,前者が後者を覆って分布する.</p><p> 3)更新世(1 Ma):更新世の火山岩は,玄界島北方に露出する岩礁で,黒瀬と呼ばれる.岩礁全体がアルカリ玄武岩からなり,K–Ar年代として1.13 Maが得られている(宇都ほか,1993).捕獲岩を多量に含み,マントルかんらん岩〜グラニュライトまでの各種が捕獲されている(例えば,Arai et al., 2001).</p><p> 今回,小呂島の玄武岩類は約10 Maに形成されたことが明らかになった.北部九州周辺において同時期のアルカリ玄武岩の活動は,長崎県壱岐島の火山岩類及び山口県北西部の角島や向津具半島に分布する大津玄武岩から報告がある.壱岐島の火山岩類は,年代・層序から4時期に区分され,最古期(10〜8 Ma),古期(5.5〜4.5 Ma),中期(4.5〜2.5 Ma),新期(1.7〜0.7 Ma)からなる(松井ほか,1997).山口県北西部の大津玄武岩のK–Ar年代は,10.4〜7.8 Ma(Uto, 1989)である.小呂島の玄武岩類は,壱岐島及び山口県北西部の火山岩類と合わせて,北部九州周辺における日本海拡大以降の比較的初期のアルカリ玄武岩活動に位置付けられる.</p><p></p><p>引用文献</p><p>Arai, Abe, Hirai and Shimizu (2001) Sci. Rep. Kanazawa Univ., 46, 9–38.</p><p>松井・宇都・広島(1997)20万分の1地質図幅「唐津」(第2版).</p><p>松本・山縣・板谷(1992)松本ゆき夫教授記念論文集,265–271.</p><p>Nakamura, McDougall and Campbell (1986) Geochemical Journal, 20, 91–99.</p><p>Sakuyama, Ozawa, Sumino and Nagao (2009) Journal of Petrology, 50, 725–779.</p><p>Uto (1989) Ph.D. Thesis. Univ. of Tokyo, 184p.</p><p>宇都・平井・荒井(1993)地質調査月報,44,693–698.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577133287343488
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2022.0_67
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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