成熟経済下における柑橘果汁産業の変貌

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タイトル別名
  • Changes in the citrus juice industry in mature economy
  • focus on high value-added product and new entry company
  • 高付加価値化と新規参入に注目して

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 第二次大戦後の高度経済成長期以降に大きく成長した日本の果汁産業は、2000年代に入ってその地位を大きく低下させている。主要な果汁飲料の1つである柑橘でも同様で、1992年の自由化以降に急増したオレンジ果汁の輸入量も、2000年代に入って減少傾向にある(図1)。この背景には日本の経済・社会が成熟化したことがあり、大衆品としての柑橘果汁の需要は今後も大きく回復する可能性は低い。</p><p> しかし近年、輸送・貯蔵コストはかかるが高品質なストレート果汁の輸入量は増加傾向にあり、果汁飲料においても品質へ関心が高まってきた。国産柑橘においても、ストレート果汁の製造に加えて多様な柑橘類を製品化する動きが強まるなど、成熟化する経済・社会に適応する動きが目立ってきた。また、このような動きは柑橘果汁製造の老舗である農協系工場だけでなく、近年、主要な柑橘産地を中心に現れてきた新規参入業者においてもみられる。 そこで本研究では、このような近年の柑橘果汁産業の変化の一端を、農協系工場と新規参入業者を事例に検討する。</p><p></p><p>2.農協系工場における柑橘果汁事業の変化</p><p> 1970年代以降、全国14県にあった農協系工場は、長らく国産柑橘果汁メーカーとしては独占的な地位にあった。しかし、オレンジ果汁の自由化を機にみかんを中心とした国産柑橘果汁の需要は低迷したため(図1)、その製造量は激減した。このため、2021年には農協系工場は11にまで減少すると同時に、「大衆品としてのみかん果汁」の製造に特化した経営は、時代に沿うように転換した。</p><p> その1つは、みかん以外の中晩柑類の搾汁・製品化にも力点を置くことである。1992年には中晩柑類を製品化していたのは4県で3品種のみだったが、2021年には7県で13品種にまで増加している。もう1つは、ストレート果汁製造の強化である。特に、大都市圏周辺に位置する5県では原果汁での販売を含めて需要が高まっており、今後も伸びると予想している。ただし、農協系工場として裾物果実(大玉・小玉・傷果など)を商品化するという役割は放棄できず、品質重視の高付加価値商品の開発・販売に専念できる環境にはない。 </p><p></p><p>3.新規参入業者におけるストレート果汁事業の特徴</p><p> 非農協系工場における柑橘果汁の製造量を把握した統計ない。しかし、農水省と日園連の統計の比較から、現在、3000t程度(全体の9%)は非農協系工場によって搾汁されていると目される。経営実態についても、詳細な調査・報告等は管見の限り見当たらないが、柑橘果汁のECサイトや各業者のHP情報をもとに250の業者(販売体)について検討した結果、以下のようなことが明らかになった。</p><p> まず、立地については静岡・和歌山・愛媛・佐賀・熊本県など主要な柑橘産地に多いが、神奈川・三重県や鹿児島県の島嶼部などにも少なからずある。経営主体は農家が70%以上で事業規模は零細だと目される。このため、主要な販路として自社HPに加えてふるさと納税サイトを活用している業者が多い。販売価格は1リットル換算で1800円程度の業者が多く、オレンジ果汁とは10倍近い差がある。一方、製品化している柑橘類は30品種以上もあり、消費者が未知の柑橘類に関心を寄せるきっかけを提供している。</p><p> </p><p>4.おわりに </p><p> このような柑橘果汁産業の変化、中でも新規参入業者による果汁事業の展開は、将来の柑橘農業にとってどのような意味を持つのか。参入動機や採算性、経営上の位置づけなどについて、発表当日に明らかにしたい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549283328
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_152
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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