高校教科書「地理総合」における防災分野の計量テキスト分析

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  • Content analysis of the high school textbook "Geography" focused on the field of disaster prevention

抄録

<p>1.研究目的</p><p> 令和4年度から高校の必履修科目となった地理総合では、地域の自然および社会的条件を総合的に勘案した災害への備えや対応を十分に理解させることが求められている。それに応じて、災害の発生しやすさ(自然条件)と被害の受けやすさ(社会的条件)を組み合わせた地域の災害リスクを教材として用いた授業実践が必要とされている。本研究は、このような授業実践のための基本情報となる、教科書「地理総合」で取り扱われている防災教育の実態を把握することをめざす。具体的には、6冊の「地理総合」の教科書を取りあげて計量テキスト分析を実施し、防災分野の記載内容を客観的に整理・評価して、その特徴を明らかにすることを目的とする。</p><p></p><p>2.データと方法</p><p> 取りあげた地理総合の教科書は「地理総合(実教出版)」、「新地理総合(帝国書院)」、「地理総合(東京書籍)」「地理総合(二宮書店)」、「わたしたちの地理総合(二宮書店)」、「地理総合(第一学習社)」の6冊(以下、順にT1〜T6と表記)である。計量テキスト分析は以下の手順ですすめ、本調査では防災分野における重要な語句と、教科書で取り扱われている内容の記載分量およびそれに基づく各教科書の特徴を明らかにする。</p><p>1) 前処理:各教科書の防災分野をスキャンし、形態素解析ツールChaSen(奈良先端科学技術大学院大学松本研究室)を使って形態素分析をおこなう。本調査では名詞を分析対象とし、3回以上出現する語句に対して複合語や表現のゆれの統一(「揺れ」と「ゆれ」→「ゆれ」にする、など)を図り、計1,412語の単語を選出した。また、スキャンしたテキストは、段落(2文以上)、項目(多くの場合、見開き2ページに対応する)、記載場所(本文、演習、導入・まとめの別)のいずれの文書区切りでも分析ができる状態にした。</p><p>2) 重要語の選出:本文の計87の項目で各単語の特徴量(TF-IDFを利用)を計算し、特徴量0.2以上の項目が2回以上出現する計187語を重要語として定めて分析の対象とした。</p><p>3) 重要語の分類:本文の計453段落を区切りとして、直接共起に基づいて重要語間の距離を測り、クラスター分析による語句の分類と多次元尺度法(MDS)による視覚化を実施した。これらの結果に基づき、重要語187語を11の語群に分けた。 </p><p></p><p>3.結果</p><p> 重要語187語のうち、出現頻度の上位10位は、発生、地域、地震、被害、災害、日本、火山、津波、噴火、防災であった。ここにもみられるように、災害の誘因に関連する語句(計17語)は高い出現頻度を示す傾向があった。一方、災害の素因に関連する語句に注目すると、自然条件に関する語句として崖、斜面、下流など(計8語)、社会的条件(建造物)に関する語句として建物、学校、施設など(計11語)、社会的条件(土地利用)に関する語句として都市、水田など(計6語)が重要語として選出された。しかし、例えば、人口、経済、貧困、高齢者・高齢化などの社会的条件に強く関連する語句は、本調査の重要語には含まれなかった(一定の出現頻度は認められた)。</p><p> 次に重要語187語を分類すると、各語群に含まれる語句の内容から、それぞれの語群に以下のラベルを付すことができた。</p><p>・自然に関連する語群:A自然全般、B地震津波、C火山、D内作用、E外作用、F気候</p><p>・災害に関連する語群:G水害、H気象災害</p><p>・防災に関連する語群:I対策、J救助・復興、K地図活用</p><p> 教科書中に各語群が占める割合(重要語全187語の語句出現頻度の計を分母に、語群に含まれる語句の出現頻度の計を分子にとって算出したもの)の6冊平均値を求めると、I対策、G水害、B地震津波がそれぞれ15%以上の高い比率を占めていた。教科書内の記載場所をみると、B地震津波やG水害は偏りが小さい一方で、C〜Fは本文で、Iは導入・まとめおよび演習で、AとKは演習で取り扱われる比率が高いことがわかった。</p><p> 各語群が占める割合を教科書間で比較すると、T2とT4が最も類似していた。また、T1とT6はG水害、T2とT3はC火山、T4とT5はI対策の比率が高かった。演習のみに注目すると、T1はH気象災害、T2とT3はI対策、T4はK地図活用、T5はC火山、T6はG水害およびK地図活用の比率が高いなど、各教科書に特色がみられることがわかった。</p><p> このほか、B地震津波、G水害では、前に挙げた素因の自然条件と社会的条件の語句が含まれているが、C火山には社会的条件、H気象災害には自然条件の素因が含まれず、誘因ごとに関連する素因の種別に偏りがあることなどが確認できた。</p><p></p><p>本研究は、科研費基盤研究(B)「地域の災害リスクを踏まえた教材開発による防災教育の高度化とその実用性の検討」(課題番号:22H00753、代表者:牛山素行)の助成を受けた。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549284352
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_156
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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