揺れる身体と都市の表象

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タイトル別名
  • Swinging Body and the Representation of the City
  • Geographical Study of <i>Happy Hour</i>
  • 映画『ハッピーアワー』に関する地理学的考察

抄録

<p>映画作品は、文化地理学にとって中心的な研究主題のひとつである。しかし、国内の地理学界において映画を主題とする研究は少なく、その多くは作品世界内のテクスト分析や、作品世界と都市現実との対応関係に関心を注いできた。これに対し近年の文化地理学においては、映画分析の新たな視座が開かれている。Rose (2016)は、視覚的なものへの分析領域として、「イメージそれ自体」「イメージの流通」「観客の場所」に加え「生産の場」を重視している。映画作品については、撮影技術や製作システムの変容、脱工業化による都市変容など「生産」をめぐる諸現実を踏まえた分析が数多く生み出されている(Corkin 2011; Andersson, J. and Webb 2019)。 </p><p> 以上を踏まえ本研究は、濱口竜介監督作品の『ハッピーアワー』(2015)を取り上げ、作品世界と生産過程の双方を視野に入れた分析を試みたい。本作は、5時間17分の時間をかけて、30代後半の女性たちの日常と葛藤を、神戸の街の風景と重ねながら描いた作品である。本作は演技経験のなかった女性4人がロカルノ映画祭で主演女優賞を受賞したことで話題を呼び、また監督の濱口竜介は、後に『ドライブ・マイ・カー』(2021)でアカデミー国際長編映画賞を受賞し、今日では世界にその名が知られている。 </p><p> ところで映画作品の生産過程にアプローチするうえでは、テクスト分析にとどまらない調査手法が求められる。本研究ではとくに、作品の制作者に対するインタビューを重視する。具体的には、濱口監督や、共同脚本者の野原位氏をはじめ、計7名の作品関係者へのインタビューを実施した。なかでも濱口による次の語りは、都市との関係を分析するための視点を与えてくれる。 </p><p></p><p>「歩くことがロケハンになるっていうことは思っているというか。(中略)そういうふうに生活をすると、いわゆる観光スポットとか、見栄えがいいところとかそういうところではないにもかかわらず、映画としては十分成立するというか、空間の魅力を捉えられる視点を発見することになるので。生活していて、たまたま見つかったところっていうのが、特に歩いてるシーンなんかは多いんじゃないかなとは思いますね」(濱口監督へのインタビュー、2022年11月6日実施)。</p><p></p><p>この語りから、「歩くこと」の中心性、スペクタクルの拒否、そのうえで見出された「空間の魅力」、という論点を導き出すことができよう。本研究では、生産過程と作品世界とを横断しつつこれらの論点を考察し、本作がいかなる都市表象を結実させたのかを明らかにする。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549289728
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_174
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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