モビリティ向上手段としての留学

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Study Abroad as the Means of Improving Mobilities
  • The Case of Nepalese Students in Japan
  • ネパール人留学生を事例に

抄録

<p>I 問題の所在と研究の目的 2008年,日本政府は「留学生30万人計画」を掲げ,以後その達成に向けて実施した一連の誘致策により,日本を目指す留学生が増加した.とりわけ東南・南アジア出身者が急増し,都市部のコンビニやスーパー,外食産業等で働く留学生の姿が目立つようになった.メディアでアルバイト目的の「出稼ぎ留学生」等と批判的に取り上げられてきたが,この傾向は,人口減少と労働力不足に直面している日本の外国人に対する期待の結果ともいえる. 本研究で着目するのは近年急増しているネパール人留学生である.その背景にネパールにおける雇用機会不足が挙げられ,外国からの送金額はネパールのGDPの約2~3割に達し,家計を支えるだけでなく国家の大黒柱ともなっている.経済機会獲得のために海外志向が強まり,この圧力が一部の若者を留学に向かわせ,近年日本はオーストラリアに次ぐ人気の留学先となっている.  本報告では,大分県にあるX大学の英語による授業のみで学位取得可能なプログラムに留学したネパール人に対する聞き取り調査をもとに,彼/彼女達の移動を前提としたライフコースにおける日本留学の意味を検討し,卒業後のモビリティについて考察する.また,ネパール人留学生の大多数が在籍する日本語教育機関への留学と比較検討してネパール人留学生内部の多様性を提示し,送出し側のネパールで若者のトランスナショナルな移動を促進する日本語教育機関の役割にも言及する. II 在留ネパール人における留学生の位置づけ   在留ネパール人の人口推移をみると,2010年代に入ってから留学生が増加し,その傾向は「留学生30万人計画」の目標を達成する頃にピークに達し,在留ネパール人に占める最大の在留資格となった.その後頭打ちになるが,留学生が卒業後就職して切り替えることのできる技術・人文知識・国際業務の在留資格登録者が増加するようになった.2020年以降はCOVID-19感染拡大の影響を受けて特に留学生が減少したが,渡航制限が緩和されると留学生が急増,2022年6月には2019年実績を超えた.本報告で取り上げるX大学のネパール人留学生数もこの変化に一部連動して2018年にピークに達したが,その後減少傾向が続き,2022年はピーク時の半分以下となった. III モビリティ向上手段としての留学 本報告で取り上げるネパール人留学生は,日本語学校に在籍する多くのネパール人留学生とは異なり,日本語の壁を超えずに直接X大学に留学している.アメリカ合衆国やオーストラリア等英語圏の大学を目指していたものの諸事情でかなわず,消去法で日本の英語プログラムに留学していた.彼/彼女達がX大学に留学した理由に,留学ビザの取得のしやすさ,学費や生活費が欧米よりも安価であること,「働きながら学べる」こと等が挙げられる.初期費用は家族や親族に支援してもらい,来日後は自身で学費と生活費を稼ぎ,自活している留学生が多い.留学の理由にネパール社会や家族からの自由と自立を挙げる留学生がいたが,就労が認められている日本への留学は,それを実現することを可能にしている. 卒業後の進路として,英語圏への大学院進学を希望する留学生が多かったが,コロナ禍で将来が見通せず,日本で就職して大学院進学に備えて資金を稼ぐ人や,とりあえずネパールに帰国する人もいた.本報告では,モビリティを向上させる手段としての留学が彼/彼女達のライフコースにおいていかなる意味を持つのか,地理的社会的観点から検討したい. 付記:本報告は科研費JP20H01398(基盤研究(B):代表 中澤高志)及びJP20H04410(基盤研究(B):代表 森本泉)の助成を受けて実施した.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549291008
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ