境界永久凍土域での過剰地下氷(excess ice)が 関与する凍土地形

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  • Landforms associated with excess ice dynamics on marginal permafrost zones

抄録

<p>はじめに </p><p>土壌空隙率以上の体積を占める地下氷は過剰地下氷(excess ice)とよばれ、これが関与することにより独特の地形(凍土地形)が発達する。過剰地下氷の局所的な発達・消失により、ドーム状丘陵地形(ピンゴ・グランドアイシング)や陥没地形(サーモカルスト)が形成される。雨水や融雪水が永久凍土層中のクラックに浸透・再凍結し、過剰地下氷が水平方向に経年積算的に成長するとアイスウェッジが形成される。これは多角形状の構造土として地表面に表出する。過剰地下氷を内包する岩屑斜面が重力の作用で徐々に斜面下方に流下すると、舌状・耳たぶ状の岩石氷河が発達する。ユーラシア永久凍土帯南限のモンゴルでは連続・不連続・点在的永久凍土帯を含み、この分布様式の差異が凍土地形の構造や変動とどのように対応しているのか、といった議論を展開できる。本発表では演者らによるこれまでの調査研究成果をレビューする。 </p><p>ピンゴ </p><p>モンゴル北部の連続帯ではピンゴは壮年期であることを示す円錐形状で、かつての湖底面に多く発達するが、南部の不連続帯では頂部が陥没し衰退段階にあることを示すものが多い。前者は閉鎖型ピンゴの特徴を示している。合成開口レーダー画像の干渉解析(InSAR)によって、近年も継続的に隆起し続けている箇所が見出された。これらの箇所は湖底跡や扇状地末端にあたり、閉鎖型・開放型ピンゴが形成されうる水文地形環境条件を満たしている。 連続帯の北部Darkhad盆地はかつて広大な氷河堰止湖であったことが示されている。ここにみられるピンゴに対し、深層ボーリングで得た年代試料や水安定同位体比などを分析することによって、離水後のピンゴおよび過剰地下氷の発達過程を編年した。 </p><p>サーモカルスト </p><p>Corona、Landsat、ALOSなどの可視衛星画像から過去数十年間におけるサーモカルスト湖の面積や個数の変遷を調べたところ、連続帯では両者とも増加し、点在帯では減少する傾向にあることがわかった。その要因として連続帯では永久凍土の最上層に含まれる地下氷の融解が進み、地表層が湿潤化したが、点在帯では活動層の深化や永久凍土の消失により地表層の乾燥化が進んでいることが示唆された。点在帯のサーモカルスト地形からの湧水中に含まれる水文トレーサー分析の結果、この湧水は多年性地下氷の融解水を起源とすることが示された。 </p><p>岩石氷河、グランドアイシング、Doghole </p><p>これらの凍土地形に対しては現時点では予察的な調査段階にとどまっている。乾燥寒冷なモンゴルは岩石氷河の発達に適している。西部アルタイ山脈全域を対象に可視衛星画像(GoogleEarth)上で判読したところ、岩石氷河は標高2,000m~3,600mの計256箇所で同定され、2,800~2,900mに最も高頻度で出現した。 グランドアイシングはピンゴに類似した形状規模のマウンドであるが、季節性地下氷の成長により形成される。Dogholeは現地では永久凍土の指標とされており、逆円錐形の陥没地形である。典型的には高位段丘面上に径数~10m程度のポリゴン状に整列・分布する。湿潤な氾濫原に発達したアイスウェッジポリゴンの過剰地下氷が、離水後乾燥気候下で昇華により消失し地表面が陥没したという仮説を立てている。 </p><p>今後の研究 </p><p>境界永久凍土域、モンゴルの凍土地形には多くの研究課題が残されている。まずは近年一般に利用できるようになってきた高解像地理情報を参照して精確なインベントリーを作成すること、次に地形変動をInSARやSfMなどによって高時間分解能で把握することが重要である。凍土地形の動態把握は、永久凍土の変動を温度だけでなく、地下氷の視点からも評価することに繋がる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549292160
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_189
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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