静岡県三島市の水辺空間における地域住民の場所イメージと環境行動

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タイトル別名
  • Place Image and Environmental Behavior of Local Residents toward Waterside Space in Mishima City, Shizuoka Prefecture

抄録

<p>1.研究の背景と目的  </p><p>都市内の河川は地域住民の休息やレクリエーションの場としての親水機能を備えており,こうした水辺空間は快適な居住環境を形成する要素となっている.従来の研究では,住民の利用や維持管理に焦点を当て都市内の水辺空間への意識や,行動の要因が検討されてきた(山下 2001,猪原 2017).しかし,水辺空間をどのような空間と捉えているかといった視点から,意識や行動を引き起こす要因については議論されてこなかった.リンチ(1968)によると,イメージは現在の知覚と過去の経験の両者から生まれ,情報を解釈して行動を導くために用いられると指摘されており,イメージが行動を引き起こす一要因となる.そのため,水辺空間に対する住民のイメージに着目して,水辺空間における行動の様態や,水辺空間との関わり方を調べることにより,行動とイメージの関係を明らかにすることができると考えられる.そこで,本研究では,水辺空間に対する場所イメージと行動における地域住民間の差異に着目し,場所イメージと環境行動の関係を考察することを目的とする.なお,本研究では,散歩や動植物の鑑賞に行くなど水辺空間を利用する行動を「利用行動」,環境や景観の保全に寄与する行動を「保全活動」,その両者を総称して「環境行動」とする.また,場所イメージは内田(1987)を参考に,場所に対して主体が思い描く心理的な内容とする.</p><p>2.研究対象地域 </p><p>研究対象地域は,静岡県三島市の中心部を流下する農業用水路の源兵衛川と桜川の周辺である.両河川とも,1960年代に生活排水の流入などによって水質や景観が悪化したものの,1990年代に下水道といったハード面の整備や市民団体による環境運動によって改善された.現在は,行政や環境保全団体によって景観整備活動が実施されており,地域住民や市民団体の環境行動が頻繁に行われている.両河川とも生活空間に近接し,環境行動が頻繁に行われていることから,地域住民の水辺空間に対する場所イメージの分析に適していると考えられる.</p><p>3.調査方法 </p><p>本研究では,場所イメージおよび環境行動を明らかにするため,両河川の周辺住民を対象にアンケート調査を実施した.また,過去の水辺空間との関わりを明らかにするため,追加で聞取り調査も行った.</p><p>4.結果と考察 </p><p>アンケート調査の結果,配布数847のうち,216(回収率25.5%)の有効回答数を得た.回答結果をSD法を用いて分析した結果,水辺空間の場所イメージとして「高揚感」・「理想的な自然」・「静寂性」・「牧歌性」・「心理的親密性」の5つの構成要素が抽出された.さらに,回答者の因子得点をもとにクラスター分析をした結果,「理想的な自然」と「静寂性」,「心理的親密性」の点数が正の方向に高い「癒しの場」型,「高揚感」と「牧歌性」の点数が正の方向に高い「好奇心刺激」型,それぞれの因子得点の絶対値が前二者に比べて相対的に低い「後景化」型に分類できた.また,アンケート調査と聞取り調査から回答者の環境行動を分析した結果,「癒しの場」型は移動や通勤の経路とする日常的な空間として水辺空間を捉えていることが示された.一方,「好奇心刺激」型は水辺空間を動植物の鑑賞や散歩の場所とする非日常的な空間,「後景化」型は日常と非日常の両方の環境行動を行っていた. 聞取り調査の結果,いずれのクラスターの回答者も場所イメージの形成要因として,水辺空間の景観の美化と水質の回復といった外的要因と,個人のライフイベントといった内的要因の2種類が影響していることが示された.これら2つの要因によってクラスターごとの場所イメージに差異が出ており,環境行動も異なった結果となったと考えられる.そして,現在の場所イメージは,環境行動における日常性/非日常性の認識,および,どのような目的意識のもとで環境行動を行うのかによって形成されると考えられる.本研究の結果,各クラスターにおいて同じ環境行動であっても,それぞれが水辺空間に対して抱いている場所イメージによってその行動の意味づけが異なることが明らかとなった.</p><p>【文献】猪原 章 2017.大阪府和泉市のため池の変化と周辺住民のため池に対する意識.人文地理69:229-247.</p><p>内田順文 1987.地名・場所・場所イメージ:場所イメージの記号化に関する試論.人文地理39:391-405.山下亜紀郎 2001.金沢市における都市住民による用水路利用と維持への参加.地理学評論74A:621-642.</p><p>リンチ,K.著,丹下健三・富田玲子訳 1968.『都市のイメージ』岩波書店.Lynch,K.1960.THE IMAGE OF THE CITY,MIT Press,Cambridge,Mass.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549304960
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_146
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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