源流から河口に至る河川縦断形の作成

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  • Creation of a longitudinal river profile from the source to the mouth

抄録

<p>地理学や河川工学,生態学といった多くの学問分野で流域が取り上げられ,河相・河川景観(辻本, 1999)や水,土砂,生物群集の連結性(connectivity)(Fryirs, 2013)を議論することの重要性が指摘されている(中村,1999).こうした流域の特徴は,河道の縦断形に反映されると考えられる.沖積河川の縦断形や河道幅,河床堆積物の粒径については,古くから研究が進められてきた(Yatsu,1955;Ohmori, 1991など).とくに山本(1994)は一級河川の調査にもとづき,河床勾配が同一で,粒径や水路幅などが類似する区間(セグメント)ごとに沖積河川を区分した.一方,山地河川では,地形プロセスを考慮したリーチスケール(流下方向で101〜102 m)の山地河川分類(Montgomery and Buffington, 1997),渓床の縦断形の成因(小玉・中村,1997),礫径変化にもとづく流路区分(島津,1990),DEMを用いた山地河川の遷急点(Hayakawa and Oguchi, 2006, 2009)に関する研究などがおこなわれてきたが,沖積河川に比べて河道形態に関する情報蓄積は十分でない.また,山地河川と沖積河川とが個別に扱われてきたため,源流から河口までを対象とした研究が必要とされている.本研究では,日本の一級水系を対象に,DEM(数値標高モデル)などを用いて,源流から河口までの河川縦断形を作成し,その特徴,とくに下流部から河口にみられる縦断形の変化について検討する.</p><p> 全国の一級水系(109河川)の本流を対象とし,以下の手順で縦断形の作成をおこなった.1)地理院地図で公開されている河川中心線を河口から源流までトレースし,河川中心線のKMLデータを作成した.2)各河川流域を含むように,数値標高モデルから10 mメッシュ10Bをダウンロードした後,ArcGISを用いて,ラスターデータを作成した.3)ArcGISを用いて,河川中心線のデータから10 m間隔のポイントデータを発生させた.4)手順2),3)で作成したラスターデータとポイントデータを用いて,縦断形標高のサンプリングをおこない,csvファイルとして保存した.5)手順4)で作成したcsvデータの中には標高が流下方向に低下しない場合があるため,それを除去するプログラムをPythonで組み,縦断図を完成させた.</p><p> 作成した河川縦断形は,古くから指摘されてきた通り,基本的には下に凸となる形態を示した.縦断形を指数関数やべき関数で近似すると,縦断形の近似曲線からのずれが標高約100 m以下で目立つようになることが多い.  河川下流部に注目したところ,多くの河川において勾配の急変(遷緩点)がみられ,その標高は10 mあるいは5 m付近に集中していた.勾配変化点の上流側は,ほとんどの河川で勾配1‰を超えることが確認されたが,盆地を流下してくる一部の河川(石狩川,北上川,雄物川など)では1‰未満であった.変化点の下流側の勾配は1‰を下回る場合が多いものの,勾配が1‰を超える河川も2割程度存在していた.勾配の急変は,山地の出口(例:宮川,千代川)や扇状地の末端(九頭竜川,木曽川),山地の中(阿武隈川,仁淀川,江の川),平地から山地への入口(北上川,高梁川,菊池川)などさまざまなタイプの地形で生じている.その一方で,河口にかけて勾配が大きく変化しない河川(黒部川,大井川)も認められた.</p><p> 一部の河川について河床堆積物のデータと河川縦断形との関係を検討したところ,勾配の急減がみられる河川では,遷緩点付近で代表粒径の急減が認められた.勾配の急変がみられる標高と合わせて考えると,勾配や粒径の急減は海進にともなうバックウォータエフェクトを反映している可能性がある.一方,勾配が大きく変化しない河川においては,代表粒径の急減は認められなかった.</p><p> 本研究で作成した河川縦断形は,定量的に扱うことが可能で,細かな河床勾配の変化を検知できる利点がある.したがって,河道に多くみられる人工改変の影響を評価する際に有用であると考えられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549316608
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_197
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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