卒業論文の主題図作成のために始まったMANDARA開発

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  • The development of GIS software MANDARA started for the thematic maps of the thesis

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 地理情報の表示・分析ができることで知られているMANDARAは,フリーソフトウェアとして,現在バージョン10を数える.MANDARAは多種多様な機能を持ちながらも,簡便に自身でデータを作成し主題図などの表示を行うことができることから,高校の地理総合において用いるGISとして教科書に挙げられ,また市民の環境学習において用いられるなど,身近なGISのひとつとしての地位を確立している.</p><p> 2.MS-DOS版MANDARA開発の特徴</p><p> MANDARAの開発が行われた経緯については谷(2005)に詳述されているが,MANDARA初期バージョンからのユーザとして,報告者らはこの論文に記載されていないいくつかのエピソードについて紹介したい.</p><p> MANDARAの当初のバージョンであったMS-DOS版の特徴として挙げられるのは,学部生の実習や巡検レポートの作成や卒業論文の作成に関わる機能が実装されていたことである.MS-DOS版MANDARAは1992年ごろから開発が始まり,学部生であった谷氏自身や同級生が巡検レポートや卒業論文の作成で必要となる主題図などをいかに簡便に書くことができるかという「身近かつ重要な」問題に対応することを主眼として開発が行われていた.ボロノイ分割,地域傾向面分析などの機能,回帰分析,重回帰分析, ローレンツ曲線や散布図の作成,メッシュデータの表示,ボーリング柱状図を整理・表示する機能は,同級生らの巡検レポートの課題や卒業論文の作成のためにそれぞれ必要とされ,それらの要望を反映して,機能の実装が行われた.</p><p> また地図データ・属性データを簡単に作成できる機能が実装されていたが,その理由は,当時の商用のGISソフトウェアが学部生の論文やレポートの作成に利用するには著しくハードルが高かったことが挙げられる.当時,谷氏の所属していた名古屋大学文学部地理学教室には,IBM PC版のArc/infoが1台導入されていたが,その操作はすべてコマンドベースであり,また,地図データ作成用にシリアルインターフェイス接続のデジタイザがあったものの,その動作は非常に不安定で,その操作性の面からも,また難解さにおいても,学部生の利用可能なものとは到底言えなかった.これに対してMANDARAの地図データ作成は手描きの白地図をスキャンして作成した画像データをベクター化する機能を備えており,地図データそのものの幾何学的な正確性は実現していなかったものの,何より学部生レベルで簡潔に自分の求める主題図作成ができることが画期的であった(図1).</p><p>3.地理教育向けGISとしてのMANDARAへ</p><p> 谷(2005)にあるように,Windows 95のリリースに伴い, MS-DOS版からWindows版へとMANDARAの開発は移行し,自身や同級生の論文作成のためにつくられた機能の多くは削除された.しかし谷氏自身が教育学部の教員として職を得たこともあって,地理教育におけるコンピュータの利用に向けた開発を氏は継続的に進め,今昔マップなどのさまざまなソフトウェア・ウェブサービスの開発に結実していった.近年ではウェブブラウザ上で動作するMANDARA JSを開発し,タブレット等さまざまな端末が利用されるようになった学校教育の現場において,OSに依存せずに地理情報の表示・分析を行うことを可能にしている.</p><p> 彼のソフトウェア開発思想の根底には,地理学の学習と教育において,いかに簡便に地理情報の表示や分析を行うことができるかという問題意識があり,それはMANDARA開発の初期から現在まで変わらないものであるといえる.</p><p> 文献</p><p>谷 謙二 1995.愛知県一宮市における都市内居住地移動.地理学評論,68A,811-822.谷 謙二 2005. 「MANDARA」の開発と研究・教育への応用.CSIS Discussion Paper #65. 論文集:GISのツール:開発者と利用者の視点から,37,21-26.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549397888
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_235
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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