岡山県美作市の狩猟活動と獣害

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タイトル別名
  • Hunting and wildlife damage in Mimasaka City, Okayama Prefecture

抄録

<p>はじめに </p><p> 平成以降,全国の中山間地域を中心として獣害問題が深刻化してきた中で,獣害対策の柱として,狩猟者による加害鳥獣の捕獲が積極的に奨励されている.捕獲の担い手となる狩猟者の減少や高齢化といった懸念もある中,過去20年でシカ・イノシシの捕獲頭数はおよそ4倍まで増え,2021年にはシカが72万頭,イノシシが53万頭捕獲された.このような強度の高い鳥獣捕獲体制を背景として,地域で行われている狩猟活動がどのように変化し,どのような特徴を持つのかを検討した.狩猟活動や狩猟者の意識についての研究は,都道府県や全国など比較的広域スケールのものが多いため,本研究では市町村レベルではどのような変化が生じているのかに注目した.</p><p></p><p>対象地域と研究方法</p><p>  調査地域である岡山県美作市は,深刻な獣害を受け積極的に捕獲を行っている地域の一つである.シカ,イノシシの両方が生息しており,特に2000年以降兵庫県側から侵入してきたと言われるシカの生息密度の上昇とそれに伴う被害拡大は著しく,捕獲数も年々増加している. </p><p> 狩猟活動の把握のため,美作市内の2014〜2020年の鳥獣捕獲データ,狩猟者の属性データを利用した.現地調査では狩猟者1名のわな猟へ同行し,捕獲から解体,埋設までの過程を調査したほか,美作市の獣肉処理施設「地美恵の郷」にて搬入から販売までの流れを調査した.また,狩猟者の属性や活動内容と意識面について調査するため,美作市猟友会の勝田分会に所属する狩猟者に対し,2015年と2021年の2回,ほぼ同内容のアンケート調査を行った.</p><p></p><p>美作市における狩猟活動の特徴と背景</p><p> 美作市におけるシカ捕獲数は,2006年の781頭から2020年の5,112頭へと,約6.5倍に増加している.一方,同時期の狩猟者数の変化を見ると大きく増加しているわけではなく,一人当たりの捕獲数の増加が著しいことがわかった.  聞き取り調査とデータから,こうした数量的な変化に加え,狩猟活動の内容も,銃猟からわな猟へ,小物猟から大物猟へ,趣味から義務へ,閉鎖的な技術伝達から開放的な技術伝達へ,という変化があることがわかった.狩猟活動のこうした変容の背景にあるのは,獣害が深刻化する以前より狩猟に趣味として親しんできた狩猟者の減少と,獣害対策を目的として狩猟に新規参入した狩猟者の増加である. </p><p> また,狩猟者へのアンケート調査からは,狩猟者が多くのハードルを抱えながらも狩猟を継続し高い捕獲数を実現していることがわかった.一方で,獣害対策を主目的として狩猟に参入したと思われる狩猟者層において,狩猟に対し「趣味として面白い」という回答が2021年になって増加した.このことから,狩猟活動が,地域にとって義務や負担であるだけでなく,趣味としての面白さや他者との交流などの社会・文化的なメリットを提供しうる可能性が示唆された.</p><p></p><p>おわりに</p><p>  美作市の狩猟活動は,全体の捕獲数の増加,狩猟者あたりの捕獲努力の増大,狩猟方法や対象動物の遷移など,獣害問題を背景として大きな変容をとげていた.獣害対策を目的として強度の高い捕獲活動が引き続き求められていく中,狩猟の価値はより限定的に捉えられていき,地域における狩猟の持続可能性は狩猟人口の減り方よりも早いペースで縮小している恐れがある.今後の研究では,狩猟者個人や地域社会における狩猟の価値をより多面的に見直し,それらを最大化できるような活動方法を模索していく必要がある.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549402368
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_253
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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