近年の多雨化に伴う北海道の化石周氷河斜面の斜面崩壊について

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Slope failures of fossil periglacial slopes in Hokkaido by recent heavy rainfall

抄録

<p>1.北海道内の寒冷地特有の斜面災害</p><p> 演者は,これまで寒冷地特有の斜面災害に注目し,調査・研究を行なってきた.例えば,2001年に発生した溶結凝灰岩からなる苔の洞門で発生した岩盤崩落(石丸ほか,2002),2008年融雪期の大雨により発生した季節凍土の関与した雌阿寒岳の土石流(石丸ほか,2022)などである.一方,北海道でも全国的傾向と同様に豪雨の頻度が増加しており,その結果,これまで比較的安定していた化石周氷河斜面周辺での斜面災害が繰り返し発生している.本発表では,北海道で見られた豪雨による化石周氷河斜面周辺の被災例や,その崩壊メカニズムについて紹介する.</p><p></p><p>2.豪雨による化石周氷河斜面の崩壊</p><p>1)2014年礼文島高山の斜面崩壊</p><p> 礼文島ではそれまで100㎜以上の日降水量を記録したことは,過去に1度しかなかったが,2014年のこの時の日降水量は160㎜に達した.この雨により礼文島内で斜面崩壊が多数発生した.そのうち,東海岸北部の高山地区では,海食崖中部から崩れ落ちた土砂が崖下の家屋を押しつぶし,2名が亡くなり,1名が重傷を負った.</p><p> この海食崖の中上部には,厚さ約20mの厚い周氷河性斜面堆積物が最終間氷期の段丘を覆っており,この斜面堆積物下部で発生した円弧すべりが海食崖中腹に抜け,その土砂が崖下に落下した.円弧すべりの最下部直下には段丘堆積物の直上にシルト層が挟まっており,その上位の斜面堆積物最下部の間隙水圧が上昇したことで,斜面崩壊が発生したものとみられる. </p><p>2)2016年知床羅臼海岸町の斜面崩壊</p><p> 北海道では2016年8月後半に4つの台風が次々と上陸・接近し,各地で斜面災害が発生した.そのうちの3つ目の台風通過の1日半後に,知床羅臼の海岸町で海食崖の最上部にのる厚い周氷河性斜面堆積物が, 30分以上にわたり大量の水とともに断続的に崩れ落ちた.崩壊土砂は斜面下を通る北海道道87号線を横切り,100m以上先の海にまで達し,これより半島の先に住む住民は1週間近く孤立した.崩壊源となった厚い周氷河性斜面堆積物の下位には難透水性の沖積錐堆積物があり,崩壊後にはその境界付近に径2m程度のパイピング孔とみられる痕跡が認められた.</p><p> 降水から1日以上を経ての遅れ崩壊は,現地の状況より次のようなメカニズムで発生したと考えられる(図-1).崩壊斜面背後の谷から伸びる溶岩流を介して供給された地下水が,その前面のやや透水性の低い周氷河性斜面堆積物に塞がれることで,地下水位が徐々に上昇し,時間を経て背後の溶岩と前面の斜面堆積物内との水位差が生じた.これにより,周氷河性斜面堆積物と,その下位のさらに透水性の低い沖積錐堆積物との境界付近にパイピング孔が形成され,周氷河性斜面末端から崩壊が進行したとみられる. </p><p>3)2016年日高山脈の日勝峠周辺の斜面崩壊</p><p> 上記の知床の斜面崩壊の翌週には,8月後半4つ目の台風の接近により,日高山脈で総降水量400㎜を超える豪雨に見舞われ,周辺地域で多数の斜面崩壊・浸食が発生した.これにより,北海道の東西を結ぶ重要幹線である国道274号の日勝峠周辺では,道路の崩壊や土砂の流入により1年2か月にわたって通行止めとなった.</p><p> 日勝峠周辺の深い崩壊は,いわゆる“後氷期開析前線”にあたる遷急線を跨ぎ周氷河性斜面堆積物で発生している.一方,緩斜面の化石周氷河斜面の浅い崩壊が,丘陵上部の浅い谷頭斜面で発生しており,周氷河性斜面堆積物上面をすべり面とし,その上位の完新世の黒土層が抜け落ちている.さらに,ガリー状の浸食も平滑な緩斜面上に多数生じた.ガリー状浸食は,周氷河性斜面堆積物を覆う黒土層で発生しており,地中でパイピング孔に繋がるものもある.</p><p> 深い崩壊は周氷河性斜面堆積物の基底付近の透水性の違い,浅い崩壊やガリー状の浸食は周氷河性斜面堆積物とその上位の黒土層との透水性の違いにより,地中水が局所的に集中することで発生したと考えられる.</p><p></p><p>3.おわりに </p><p> 北海道では,現在の凍結・融解に関与する斜面変動も存在するが,近年の豪雨頻発により,氷期に形成された化石周氷河斜面周辺での斜面崩壊が発生するようになっており,防災の面からも寒冷地形に関する知識が重要なものになってきている.</p><p></p><p>謝 辞:本成果は北海道立総合研究機構や㈱ドーコンの田近淳氏,防災地質工業㈱の雨宮和夫氏らとともに実施した調査・研究により得られたものである.関係各位に対し厚くお礼申し上げます.</p><p></p><p>             文 献 </p><p>石丸 聡ほか(2002):2001年6月に発生した「苔の洞門」の谷壁岩盤崩落.北海道立地質研究所報告, 73, 209-215. </p><p>石丸 聡ほか(2022): 凍結・融雪期の大雨により生じた土石流 ―雌阿寒岳2008年5月の大雨による事例―. 日本地すべり学会誌, 59(2), 41-49.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549405184
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_27
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ