石鎚山における登山者の行動特性と近年の登山観光

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  • Recent characteristics of mountaineering tourism focused on tourist activities; the case in Mt. Ishizuchi, Japan

抄録

<p>Ⅰ.研究目的:登山をめぐる先行研究では、登山道整備、環境保全、登山行動及び登山リスクの把握等の研究の蓄積が多く、さらに観光研究としては、登山観光地の開発プロセス、主要山岳地の実態把握が進められ、近年では、登山者か、あるいは一般観光客としてその行動をみるべきか、大衆化が進むほど観光化する登山に対して注目すべき議論がみられるようになった。本研究の目的は、日本百名山の一つである石鎚山を事例に、観光の変遷を踏まえたうえで、登山者の動向を分析し、石鎚山の登山観光の特性について明らかにする。Ⅱ.研究対象地域・石鎚山系の観光開発:石鎚山系は、愛媛県と高知県の県境に位置する複数ピークの山岳であり、縦走コースはロングトレイルに指定され、特に西日本最高峰(標高1,982m)の石鎚山は中四国・近畿圏から登山客を集める。石鎚山信仰の修験・参詣拡大を背景に登山道が整備され、特に1950年の石鎚登山ロープウェイの開業に続く、石鎚国定公園の指定と『日本百名山』への掲載を機に観光登山が拡大した。さらに1970年代の石鎚スカイラインの開通、県営ロッジや国民宿舎の開業、ピクニック園地整備以降は、登山客が急激に増加し「登山ブーム」をむかえた。1982年の石鎚山標高年記念の年には、石鎚スカイラインの利用台数は約10万台を超え、石鎚ロープウェイの利用者数は30万人に至った。一方で、大型バスツアー、自家用車による日帰り登山客やハイカーが多くを占めるようになり、山小屋等は徐々に減少した。 石鎚山は、愛媛県西条市側の石鎚ロープウェイ山頂成就駅から登る「石鎚神社成就ルート」と石鎚スカイラインを経て愛媛県久万高原町の土小屋登山口から登る「土小屋ルート」が主な登山道であり、3時間程のコースタイムで天狗岳を目指すが、岩場の尾根が続く崩落危険個所であり、かつ山頂部に滞留するスペースが無いため、手前の弥山を登頂とする登山者も多い。Ⅲ.登山者の特性と観光化する登山:本研究では、2021年10月9日から31日にかけて、弥山に登頂した登山者115人に対して、登山行動に関する聞き取り調査を実施した。なお、調査の実施時期は緊急事態宣言解除後、新型コロナウィルス感染症の第5波収束の時期にあたる。対象者の年齢は18歳から81歳まで幅広く、主に20代と50代の男性が多かった。社会的に移動制約があったこともあり、県内来訪者数が41%と最も多いが、次いで瀬戸内海に面する近隣の兵庫県、広島県、岡山県、高知県から訪れており、日帰り登山の旅程が56%、登山と愛媛県・四国内の周辺観光等を組み合わせた1~3泊程度の宿泊旅程が32%であった。 石鎚山の登山観光の特性は、登山経験の少ない登山者や初心者、及び10年以上の登山経験を有する登山者に二極化している点である。経験の少ない登山者のうち、今回の調査では、昨今のアウトドア・ブームを受けて、コロナ禍に継続的な登山を始めた登山者が全体の41%を占めており、2018年に石鎚山で実施した登山者調査の結果と比較しても、初心者がさらに増加する結果となった。山頂滞留調査では、正午の時間帯に100名程の滞留がみられ、「山ごはん」ブームを背景に、飲酒をしたり、湯を沸かし即席麺等をつくる登山者が多くみられるようになった。ルートグレーディング係数をみても、石鎚山は一定の難易度を有する登山コースであるが、特に土小屋ルートのように短距離・短時間の登頂が可能なコースがあり、かつ登山口からピークまでほぼ1本道で登山道が分かりやすいため、剣山と並び初心者向けの百名山として認識されている。一方で、「ハイキング感覚」と回答する観光志向の強い登山者にとって、石鎚登山の難易度を高めている2か所、すなわち石鎚山信仰の行場である4か所の鎖場や山頂に至るナイフリッジは、観光の「冒険的なアトラクション」として位置付けられる傾向にあること、コースタイム等の検討など登山計画が無く、開始時刻が遅いうえ頂上での滞留時間が長く、行動終了時刻が遅い傾向にあるなど、危機意識に課題も見られる。 特筆すべき点は、全体の半数以上の登山者、特に登山経験の3年以上の登山者が、YAMAP等の登山支援アプリケーションをスマートフォンにダウンロードして活用しており、2018年よりも大幅に増加した。軌跡を記録し、紅葉の写真や旅行記をアップロードして公開する登山者も20%みられ、眺望地の撮影のみならず、登山中のパーティーの様子、休憩、分岐点、食事風景、登頂記念撮影を随時撮影し続ける等、登山中の観光行動を誘発する傾向にある。各県の最高峰の登頂をGPSの記録で証明するとYAMAPから付与される「バッジ」を収集する者も少なからずおり、百名山制覇を目指す登山者の強い動機付けとなっていた。このような近年の変化もまた、登山における観光経験に影響を与えている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549414528
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_302
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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