長野県御代田町における移住者の社会関係からみた定住化の進展

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  • The Progress of Settling in Miyota-Town, Nagano Prefecture from the Perspective of Social Relationships by Migrants

抄録

<p>1.研究背景 1950年代半ば以降の日本においては,都市部と農村部の雇用格差が拡大していた.同時期に向都離村が急増し,都市部は大幅な転入超過となったが,1970年ごろを境にその傾向は鈍化していった.その後,都市部に定着した者もみられた一方で,都市部から農村部へ戻る「Uターン」も一定数みられた.また,近年は「Iターン」「Jターン」といった用語も散見され,都市部から農村部への人口移動は以前よりも増加している. 農村部への人口移動は1990年前後においては,就業(通勤)のために宅地化された都市近郊の農村部に移住する形態が多かった.2000年代に入ると,就農をはじめとする「田舎暮らし」を希求する移住がみられるようになった.そして,近年では田舎暮らしに限らず,理想的なライフスタイルの希求にともなう移住が増加傾向にある.そこには多様な背景がみられるため,混住化の様相も絶えず変化し続けていることが予想される.農村部は都市部と比較しても住民同士の社会関係が密接であり,特にIターンは新住民と旧住民の混住化を色濃く示す事象である.そのため,移住の背景に関わらず新旧住民の対立が発生しやすい傾向にあり,既往研究においても移住者が理想的な社会関係を構築し,定住することは困難であることが指摘されている. 本研究では人口が増加傾向にある御代田町において,移住者の社会関係を分析することから,その社会関係の広がり方が,どのようにして御代田町への移住者の定住に結びついているのかを明らかにする. 2.御代田町自治会「区」の概要 御代田町には「区」と呼ばれる20の自治会がある.区は町の下部組織として,町内清掃や祭りの運営,街灯の管理を行うほか,区をさらに細分化した「班」単位でごみ捨て場の管理を行っている.そのため,ごみ捨て場を利用するためには区に加入する必要がある.しかし,アパート等の集合住宅の場合,その大半は管理会社によってごみ捨て場が設置されており,アパートの大家が共益費から区費を納入している場合が多いため,住民が個人として区へ加入する必要性は低い. 御代田町は世帯数の増加とともに集合住宅に居住する世帯が増加しており,区への加入率も低下している.現在,アパート住民の大半は,大家を通じて区費を納入しているものの,地域清掃や行事への参加率が低い.金銭面ではなく労働力の面で,フリーライドが問題視されている. 3.移住者の構築する社会関係  集合住宅での生活では,集合住宅の管理会社が設置したごみ捨て場を利用するため,区の管理するごみ捨て場の利用は必要ない.そのため,大半の集合住宅居住者は区に加入せず,地域行事にも参加しない.すると,移住先での結びつきは職場の同僚や同じ学校・保育施設に通う子どもの保護者,SNSを利用する移住者といった,似た社会的属性を有する者との間に限定される.そのため,近隣住民と接触し親しくなる機会が消失し,結果として自宅近隣の社会関係は希薄となる.  一方,戸建住宅での生活では,ごみ捨て時に区の共同管理するごみ捨て場を利用する必要があり,区への加入は半強制的なものとなる.区費を自ら納入し,地域行事に参加する機会が生じた結果,その積み重ねが行事等を介さない,自発的な社会関係の構築へとつながっていくと考えられる.つまり,集合住宅での居住時と比較して,近隣住民との社会関係は濃密となる傾向にあるとみられる.また,自宅近隣よりも物理的に広い範囲に所在する似た社会的属性を有する者との関係は,住居形態に関係なくみられる.このことから,戸建住宅に居住する場合,集合住宅に居住している場合と比較して,より多様な社会関係が生じているといえる.このことから,移住者の住居形態が結果的に移住者の有する社会関係の範囲に影響を及ぼしているといえる.また,これまで農村部への定住にあたって絶対的に必要とされてきた,近隣コミュニティへの参加・適応は,少なくとも本事例においては必須ではないことが明らかになった. 4.おわりに  既往研究において,Iターン移住はライフスタイルの希求による純粋な向農村移動,田園回帰として捉えられてきた.本研究で取り上げた御代田町は,町内にDIDがないため,一見するとこれまで語られてきた田園回帰と同様の事例であると捉えられる.しかし,御代田町は人口増加が続いている自治体であり,新築の戸建住宅,アパートの建設も進んでいる.大谷(2007)が明らかにした「都市部はマンション居住者が多いため,結果として近隣関係が希薄となる」という点が一致していることからも,御代田町における移住者の増加傾向を,従来のような田園回帰としては捉えきれないといえる.そのため,本事例は磯田(2018)が提唱した,「田園回帰は反都市化のさきがけである」ことを示す一事例に位置付けられると考えられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390577144549447936
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_85
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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