痕跡唇裂に対するわれわれの治療法の分析

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  • Analysis of Our Treatment Protocol for Microform Cleft Lip

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抄録

痕跡唇裂は一般的に不完全唇裂の中でも変形が軽微なものを指す。1964年にBrownが報告して以降,国内外で診断基準や治療法に関する複数の報告がなされてきた。しかし,半世紀以上の歴史があるにもかかわらず痕跡唇裂の治療では病変をどこまで切るべきか,いかに切らずにおくべきか未だ結論はない。Cupid弓の再建に局所の縫縮やZ-形成などで対応できない赤唇の高さの違いや裂の広がりなどの位置異常を伴った症例に対してRotation and advancement法(R-A法)を行っている。大幅な筋層の位置の変更が必要な症例は通常の唇裂形成術と同様に筋層切開が必要となる。しかし,過去20年の症例を振り返ると痕跡唇裂では全症例において筋層全層にわたる切離には至っていないことが分かった。本論文では,われわれが用いてきた術式とその結果の評価を報告する。岩波らの診断基準に従い痕跡唇裂と診断した全10例に対して,鬼塚の唇裂・口蓋裂分類,Yuzurihaらによる痕跡唇裂重症度分類を用いて裂型を細分類した。そして初回手術術式および修正手術の有無,その術式を調べた。さらに術前後の成績はThomsonの評価法を用い評価した。結果,鬼塚唇裂分類では2例が第2度唇裂第2級,残り8例は第2度唇裂第3級に分類され,Yuzuriha分類ではMinor-Form 3例,Microform 4例,Mini-Microform 3例に分類された。鼻腔底から口唇全長に及ぶ切開を加えたものは7例で,うち5例はR-A法を行っており残り3例は部分切開のみを行った。全例において口唇全層に及ぶ切開は行わず,連続性の保たれていた深部筋層は温存した。口輪筋の縫合は切開の範囲に関わらず,浅部筋層の離開や菲薄化を認めた6例で施行した。長期経過の中で追加手術を施行したものは4例で,うち2例はさらにもう一度追加手術を行っている。Thomson評価は全例において術前後で著明に改善していた。これらの結果よりわれわれは現在,瘢痕ではなく正常な筋肉で連続性の保たれている筋層は温存して口唇形成を行うことが侵襲も少なく最良と考えて治療を行っている。

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