地域高齢者の転倒予測モデルの構築:決定木分析を用いた検討

DOI
  • 牧野 圭太郎
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 李 相侖
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 裵 成琉
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 千葉 一平
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 片山 脩
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 原田 健次
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 冨田 浩輝
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 森川 将徳
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター
  • 島田 裕之
    国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>高齢期の転倒は要介護状態を引き起こす主要な原因であり、転倒リスクの予測は理学療法における重要な課題である。多くの先行研究で転倒予測に向けたスケール開発やカットポイント算出が行われてきたが、多様な因子が影響する転倒発生の予測は容易ではなく、転倒予測モデルの探索には未だ検討の余地があると考えられる。近年、機械学習手法が疾病や事象の予測に活用され始め、中でも決定木分析を用いた予測モデルは論理的解釈が容易であり臨床応用の観点からも注目を集めている。そこで本研究では、地域高齢者を対象とした4年間の縦断調査から、簡便に評価可能な既知の転倒予測因子を組み合わせ、決定木分析による転倒予測モデルの構築を行った。</p><p>【方法】</p><p>2011年のベースライン調査と2015年の追跡調査に参加し、脳血管疾患やパーキンソン病、認知症のない地域高齢者2,658名(平均71.1±4.8歳)を分析対象とした。転倒予測因子としてベースラインの年齢、性別、服薬数、変形性膝関節症の有無、下肢の痛み、歩行速度、Timed Up and Go test、転倒恐怖感、過去1年間の転倒歴を評価し、アウトカムとして4年後における過去1年間の転倒歴(1回以上)を評価した。決定木によるモデル構築にはC5.0アルゴリズムを用い、10-fold cross validationにてモデル性能を評価した。さらに、同じ予測因子を用いたロジスティックモデル(ステップワイズ変数減少法)を構築し、決定木モデルとロジスティックモデルとの間で予測性能の比較を行った。</p><p>【結果】</p><p>4年後の転倒歴は、2,658名のうち426名(16.0%)に認められた。決定木分析の結果、6つの予測因子(ベースラインの転倒歴、年齢、服薬数、下肢の痛み、Timed Up and Go test、転倒恐怖感)から成る7 つの分岐を持った決定木が構築された。予測性能について、ロジスティックモデルでは、正答率0.62、曲線下面積0.64、感度0.50、特異度0.73であったのに対し、決定木モデルは、正答率0.65、曲線下面積0.70、感度0.62、特異度0.69であり、正答率、曲線下面積、および感度において決定木モデルの方が高い値を示した。</p><p>【結論】</p><p>本研究で構築した決定木モデルはロジスティックモデルと比べて予測精度およびモデル解釈の容易さの面で、転倒リスクの一次スクリーニングツールとして有用である可能性が示された。また、本研究で用いた予測因子は地域での機能健診や臨床での理学療法場面において一般的に評価されている変数であり、従来の転倒関連因子を活用しつつ転倒予測精度をさらに向上させる上で、決定木分析を含む機械学習手法は効果的であると考えられる。今後、より広範囲にわたる予測因子の検討や他の学習モデルを含めた検証により、予測精度のさらなる向上を目指す必要がある。</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言の趣旨に沿い、対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究を実施した。</p>

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