日本海及びその周辺海域から得られたイトカケガイ科の2新種 (腹足綱:新生腹足類)

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  • Two New Species of the Family Epitoniidae from the Sea of Japan and Adjacent Waters (Gastropoda: Caenogastropoda)

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抄録

<p>山口県在住の杉村智幸氏が山口県沖の日本海陸棚上から採集されたイトカケガイ科の標本を分類学的に検討した結果,2つの未記載種を見出した。さらに日本海西部で実施されたドレッジ調査などのサンプルの検討や,過去の文献の精査により追加の標本や分布情報が得られたため,これらを取りまとめて新種として記載する。</p><p>なお,日本海では2万年前の最終氷期に浅海域と漸深海帯の生物の大量絶滅が起こったことが知られており,本新種の分布からそれらとの関連についても議論する。</p><p>Papuliscala acus n. sp. スギムラハリイトカケ(新種・新称)</p><p>殻は8~12 mmの小型で,非常に細長い尖塔形。乳白色で縫合近傍に淡い褐色の色帯がある。各層に10~12条の強い縦肋と20~25条の微かな螺肋をなす。原殻は1層目平滑で終端部近くには多数の明瞭な縦肋が生じる。体層は明らかな底盤を形成し周辺部では強い角張りを形成し次体層の縫合上では螺肋となる。次体層は10層内外で,円筒状でひれ状とならない。殻口は1重,やや方形に近い楕円形,臍孔は閉じる。</p><p>変異:太平洋の2か所の産地から得られた標本はいずれも大型で螺肋が強く,特に肩部では龍骨状となることで異なって見えるが,日本海産の個体でも螺肋が強まる場合があること,及び高知県沖の標本ではやや中間的な形態を示すことから,これらは種内変異と見なした。</p><p>ホロタイプ:殻長 9.5 mm,殻径2.0 mm(NSMT-Mo 79439)。</p><p>タイプ産地:山口県下関市角島沖(34°41′N, 130°46′E),水深128 m。</p><p>分布:若狭湾から玄界灘までの日本海沿岸,高知県沖および紀伊半島沖,水深100~170 m。</p><p>付記:本新種は貝殻(特に原殻)の形態が,北東大西洋の漸深海帯(水深1,830 m)から知られるPapuliscala elongata(Watson, 1887)に著しく近似することから,Pupiliscalaに属するものと考えられる。この属は大西洋の漸深海帯に分布の中心があり,同海域からは16種が知られる。一方,北西太平洋から本属として知られているのは,P. japonica (Okutani, 1964)ソウヨウイトカケのみであるが,本種はインドネシア・バンダ海の漸深海から記載されたCylindriscala humerosa(Schepman, 1909)に著しく近似することから,別属に移されるべきものと考えられる。ただし,これらの種をCylindriscala属に所属させることについては疑問の意見がある。本新種はこのC. humerosaにも見かけ上近似するが,後者は殻が太く,螺層の幅が広く,縦肋が傾かないことなどで明瞭に区別される。本種は若狭湾以西の日本海の他に,土佐湾や紀伊半島沖の太平洋からも採集されていて,日本海には最終氷期の大量絶滅の後に,黒潮の再流入に伴って二次的に日本海に侵入したものと考えられる。</p><p>Cirsotrema sugimurai n. sp. ハナレイトカケ(新種・新称)</p><p>殻は5~7 mmの小型で,尖塔形。螺層は大きく巻き解けてコーク・スクリュー状。各層に15~18条のヒレ状の縦肋と多数の細いが明瞭な螺肋をもつ。原殻は少旋型で約1.5層,平滑で3条の螺肋がある。殻口は楕円形,やや方形に近い楕円形,臍孔は閉じて殻底には縦肋が褶曲して形成された明瞭な繃帯を持つ。</p><p>ホロタイプ:殻長 5.8 mm,殻径2.3 mm(NSMT-Mo 79444)。</p><p>タイプ産地:対馬海峡(34°12.4′N, 129°29.9′E),水深110~112 m。</p><p>分布:新潟県沖~玄界灘の日本海に恐らく固有,水深80~170 m。</p><p>付記:本種は螺旋が解けた特異な形態を示す。属位については,底盤を欠くことでやや疑問があるが,小旋で直達発生型の原殻を持つこと,及び殻底に繃帯を持つこと(これらの形態はいずれもEpitonium属には認められない)から,暫定的にCirsotrema属に含めた。見かけ上最も近似するのは,大西洋の漸深海水深1,100~2,005 mから知られるEpotonium semidisjunctum(Jefrreys, 1884)であるが,後者はEpitonium属に典型的な平滑で多旋のプランクトン食型の原殻をもつ。原殻や成殻の彫刻の形態などから,本新種に最も近似すると考えられるのはチジワイトカケCirsotrema fimbriatulum(Masahito, Kuroda & Habe in Kuroda, Habe & Oyama, 1971)であるが,この種は殻が巻き解けないことや,明瞭な底盤を持つことで明瞭に区別される。本新種はその特異な形態にもかかわらず,日本海以外からは全く記録がなく,本科としては日本海の漸深海に分布するAcirsa morsei(Yokoyama, 1926)イナダイトカケとともに,最終氷期の絶滅を免れた日本海固有種と考えられる。</p>

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